正体
監督/藤井道人
新聞記者(19)で一気に注目を集めた監督
宇宙でいちばんあかるい屋根(20)
ヤクザと家族 The Family(21)
余命10年(22)
ヴィレッジ(23)
最後まで行く(23)
などどの作品も深みあるのがポイントかも知れない
今回横浜流星くんとは3度目のタッグ
出演
横浜流星
吉岡里帆
森本慎太郎
山田杏奈
原日出子
松重豊
山田孝之
ほか
染井 為人の原作小説の映画化。
以前にWOWOWで映像化されており、その際には1時間番組×4話構成で制作された
が、
今回は2時間の映画としてまとめられており、原作やドラマ版のようにキャラクターの掘り下げる時間が若干短かったり、キャラクター同士のポジションが微妙に違っている
とはいえ、2時間のなかで気を抜く暇がないほどのテンポの早い展開…が判断としても変わるところかもしれない
story
日本中を震撼させた凶悪な殺人事件の容疑者として逮捕され、死刑判決を受けた鏑木(横浜流星)が脱走した。
潜伏し逃走を続ける鏑木と日本各地で出会った沙耶香(吉岡里帆)、和也(森本慎太郎)、舞(山田杏奈)そして彼を追う刑事・又貫(山田孝之)。又貫は沙耶香らを取り調べるが、それぞれ出会った鏑木はまったく別人のような姿だった。
間一髪の逃走を繰り返す343日間。彼の正体とは?そして顔を変えながら日本を縦断する鏑木の【真の目的】とは。
その真相が明らかになったとき、信じる想いに心震える、感動のサスペンス。
なんといっても横浜流星くんの演技の素晴らしさ
これがなによりも大きい
さっきも言ったが、シナリオの展開でいうと、キャラクターの置ける心情や関係性の掘り下げが若干弱い
が、
それを補っているのが流星くんの演技力だろう
それは随所に現れているが、工事現場の日雇い労働者のときには観る側に対して、事件を起こした犯人のような雰囲気を醸し出しておき、目にも鋭さと懐疑心と復讐心とも言える鋭い気迫を見せておきながらも、吉岡里帆演じる安藤との焼き鳥屋のシーンでは、
「信じてる」
というキーワードから、気迫と危機感と脱力感、喪失感に苛まれていた鏑木(横浜流星)の瞳に生気が戻る部分の目の演技は本当に素晴らしい
ほんと、このシーンだけで胸を打ち、彼が無実であることを観客側すらも信じてしまうだけの演技力である
そしてラスト。裁判官の明確な言葉もないのに見てる側が胸をうつほどの安堵感感じる表情。演出としてスピーカーからはセリフの声が聞こえないのに、彼の喜びの絶叫すら聞こえてくるほどの演技
これら全てのシーンで、横浜流星の演技の素晴らしさがあってこそのシーンが続く。
また鏑木が足を怪我してうまく歩けないのを、きちんと最後まで演じきっている
この手の怪我をしたキャラクターの設定はあっても、どこか普通に歩くシーンがでてくることは多いが、時系列的に最後の裁判シーンでも足を引きずるような足音がしている。その前の拘置所内での謁見室でも足を引きずるような歩き方とスリッパの音がしており、痛々しさを感じられる影の演出とも言えるだろう。
その前の 氷の湖のシーンでも短いシーンながら足を引きづっている演技をきちんとできている。もちろんその前のシーンから数ヶ月過ぎているから多少回復してる用に見えるのも、彼がキャラクターをしっかりと理解をして時間軸も踏まえて演技をしているのだろう。
横浜流星くんは この映画で、日本アカデミー賞主演男優賞を獲得しても良いと思う。それぐらい多くの人に観てもらいたい、素晴らしい演技を見せてくれる。
そして吉岡里帆
ハケンアニメ!以降演技の幅が広がったのではないだろうか?
シリアスな作品でも浮くことなく、地に足がついた演技を見せてくれる。鏑木への声の柔らさかは、恋愛とも母性とも言える優しさに満ちた声であり、彼女の存在が、言葉が鏑木の絶望に一筋の光を導いたとも言える。
そして山田杏奈もいい演技
登場するのは最後の方だし、原作、WOWOW版とは少しポジションが違うが、それも気にならないほどの自然な演技を見せてくれる
何と言っても山田孝之も素晴らしい
この映画そのものが「逃亡者(93)」を思わせる展開であり、山田孝之のポジションは「逃亡者(93)」のトミー・リー・ジョーンズの刑事と同じ役どころ。
ちなみな映画「逃亡者(93)」の元ネタはTVドラマ。
要はこの作品の骨子とも言える部分は、古くからあるサスペンス映画の王道的展開とも言える。
だとしても、王道展開のメインキャストとなると
どこかで見た感じがする演技
になってしまいがちだが、さすが山田孝之
中間管理職としてのポジションの悲哀すら含めて、見事な刑事役を演じてる。
先程もいったように
シナリオ添加はかなり無理がある部分が多々見受けられる。
長い小説を2時間にまとめるには仕方がないところだろう
キャラクターの掘り下げも少ないのも事実。
工事現場で仲良くなる野々村(森本慎太郎)との友情の構築は時間が短すぎるかもしれない
ライターの安藤(吉岡里帆)との関係性も、もう少し描いても良かったかもしれない。
水産加工食品の話しと宗教法人の部分はほぼほぼカット(これは仕方ない)
しかし、それを補うだけの魅力ある俳優陣の演技力はすばらしい
「人を信じたい」という性善説ともいえる展開は大きな刺激は少ないかもしれない。
加えて古くからある「主人公が犯罪者と勘違いされる冤罪事件の物語」をベースにしつつ、藤井道人監督らしい社会へのアンチテーゼを盛り込んだおすすめ作品
また冤罪事件においても、大型犯罪事件に対しても社会全体のSNSなどでもよく見かける「犯人探し」へもちょっとしたアンチテーゼを感じるように作っているところが藤井道人監督らしいところかもしれない
というか藤井道人監督は、「人を信じたい」人なんだろうなとも思う。
音楽の使い方もいらやしいくらい、緊迫感に満ちたものを使用するなど、観ている側への「圧迫感」とも言える演出は……やり過ぎ感もあるが、邪魔にもならない…という絶妙なのもポイントかも知れない
心配していたラストは原作小説版ではなくWOWOW版にしているところも、エンターテイメント寄りにするうえで大切だったのかもしれない。
が、
個人的にはこのラストに大賛成です。
とにかく
横浜流星くんの演技を見るだけでも価値がある1本