【写真】完璧なヒーロー像と平凡な平社員の“二面性”を持つナイス

 第1話の放送を受けて、個人的には期待通りの導入であったと感じているが、日本国内では、「Filmarks」をはじめとするレビューサイトでの初期反応は賛否が分かれている。斬新なアニメーションや現代社会を反映したテーマ性を評価する声がある一方、「展開が急すぎる」「3DCGへの好みが分かれる」といった否定的な意見も少なくない。特にアニメーション表現に関しては、日本における手描き原理主義の影響も根強く、革新的であるがゆえの批判を受けている側面もあるだろう。

「TO BE HERO X」ノンクレジットOPムービー|SawanoHiroyuki[nZk]:Rei「INERTIA」/25年4月日曜朝9時30分放送開始!
 興味深いのは、そうした国内評価の中で、花江夏樹をはじめとする声優陣の演技に対する具体的な称賛があまり見られないことだ。これは、作品そのもののクオリティへの議論が優先され、個別の演技の評価にまで目が向きにくい初期フェーズであること、またヒーロー像がまだ全容を見せていないことに起因しているだろう。

 一方、英語圏においては、アニメレビューサイトやYouTube、Redditなどでの言及を見ると、作品への初期反応は比較的ポジティブだ。海外作品に触発されたとされるアートスタイルや、社会批評的な物語構造に対して好意的な反応が多い。だが、日本語キャストの演技に対する明示的な評価はほとんど見られない。これは、英語圏でのアニメ視聴において吹替版が普及していること、そして西洋のレビュー文化が構造的・演出的評価に軸足を置く傾向にあることに起因している。

 とはいえ、PinterestやART street、DeviantArtなどのプラットフォームでは、早くもナイスのファンアートが投稿されはじめており、キャラクターそのものへの感情的な親近感が芽生えていることが伺える。花江の演技そのものが言語化されてはいないが、彼の声によって息づいたナイスというキャラクターが、視覚的かつ情緒的に受け入れられている可能性は高い。

 こうした評価の分岐には、日英の“声優文化”そのものの違いも大きく関与している。日本では、声優は演技者であると同時にタレントであり、作品の魅力を担保する“顔”としての役割も求められる。声優アワードのような制度が存在し、演技そのものが社会的に評価される文化的土壌があるのだ。一方で、英語圏では字幕文化の薄さや吹替視聴の主流化によって、オリジナルキャストの演技が視聴体験に占める比重は相対的に小さい。評価軸は構成や映像、ストーリーに置かれがちで、声優の“演技力”という評価基準は後回しになる傾向は無視できない。

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