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一生に一度は見たい東京美術案内

矢印井の頭恩賜公園内に位置する三鷹の森ジブリ美術館。井の頭恩賜公園内に位置する三鷹の森ジブリ美術館。Life Insider

三鷹の森ジブリ美術館をネット検索すると、「東京で人気ナンバーワンの美術館」と出てくる。特に外国から東京にやってきたインバウンド観光客には人気があるという。ジブリ美術館は日本にしかない。インバウンドの観光客にとっては、東京国立博物館や国立西洋美術館にある美術品よりもジブリのアニメがある空間の方が魅力的なのだろう。なんといってもジブリの作品を愛する人たちにとって、そこは聖地だ。

同美術館のアクセスを見ると、「JR三鷹駅南口から玉川上水沿いをゆっくり歩いて約15分です」と書いてある。案内にあるように駅を出ると、すぐに玉川上水に沿った道が見つかる。「風の散歩道」の愛称を持つ歩道で、道の両側にある。上水沿い歩道の道幅は1.5メートル、住宅側のそれは3.5メートルだ。歩くとしたら住宅側の歩道がいい。道幅が広いから歩きやすいし、車道越しの適度な距離からし玉川上水の景観を眺めることができる。上水の土手に植えてある欅を始めとする木々を見ながら歩く時間は至福だ。京都にある疎水沿いの道「哲学の道」にも比することができる上質の散歩道である。

風の散歩道はジブリ美術館の館内まで続くアプローチだ。駅を降りてから目に映る三鷹の自然景観の数々、空、風、時には雨もまた同美術館の展示品と思えばいい。

館主・宮﨑駿がやりかったこと

ジブリ美術館は地上2階、地下1階建ての建物で、入り口を入るとそこは広間になっている。窓はステンドグラスだ。それぞれのステンドグラスにはジブリのキャラクターや動物、飛行機や植物の模様がある。

ステンドグラスはそのものをまじまじと見つめるというより、窓からこぼれてくる光を感じて楽しむものだと思う。ジブリ美術館には数多くのステンドグラスがあって、窓のほか、照明の傘もそれだ。ステンドグラスからこぼれてくる淡い光があたたかくやさしい。

普通の美術館へ行くと、照明はLEDだ。LEDは展示品にはいいけれど、人間がたたずむ場所のそれとしては人工的で冷たい光と言える。ジブリ美術館は展示品もさることながら、やってくる観客に対しての気遣いにあふれている。

広報の小林一美さんは美術館を作った宮﨑駿監督の意図を教えてくれた。それはとても大切な言葉だ。

「宮﨑(駿)館主がやりたかったことは、キャラクターにたくさん会えるテーマパークを作ることではありませんでした。『ステンドグラスの光って、こんなにきれいなんだ』『美術館の庭に生えてる草は、こんな葉っぱをしているんだ』といったことを子どもたちに感じてほしいと思ったんです。世界は複雑で、見落としている美しいものに出会える場所にしたいからここを作りました。見ていただくと分かるのですけれど、ステンドグラスのランプも規格品ではありません。一つひとつが心のこもった手作りのものです。微妙に形が違います。そういったところを見ていただきたいです」

ジブリのキャラクターに商業主義の匂いがしないのは、こうした宮﨑駿の哲学があるからだ。ここにあるものは美だ。周囲の自然も含めて、美しさを持つものが集まっている。

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