※画像はセガサターン版
ワープが開発し、三栄書房より1995年4月1日に発売された3DO用3Dアドベンチャーゲーム「Dの食卓」が、本日2025年4月1日で発売30周年を迎えた。
本作は、3DOという少々ニッチなハードでの発売だったが、インタラクティブムービーを駆使した画期的な作品に、3DOを持っているプレーヤーの間では大きく話題に取り上げらた。後にセガサターンやプレイステーションに移植され、さらに世間の注目を集めることとなる。
本作の舞台は、1997年ロサンゼルスの総合病院。そこで大量殺人事件が発生した。犯人は同病院の病院長である、リクター・ハリス。今もなお、多数の入院患者を人質に取って病院内に立てこもっているため、手を出すことができない。
そこへ現われたのが、リクターの娘であるローラ・ハリス。変貌した父の謎を突き止めるため、惨劇の舞台である病院に単身乗り込むことになる。
本稿では、そんな「Dの食卓」の思い出を振り返っていきたい。
【D: The Game(Dの食卓) – Nightdive Studios Trailer】
※動画はSteam版「Dの食卓」のトレーラー映像(ゲームは英語のみ対応)異世界に広がる謎の館から、2時間以内に脱出する
プレーヤー(ローラ)に与えられた時間は、2時間。この時間制限の中で異世界の「Dの城」の謎を解き明かして、脱出することがゲームの目的となる。言うならば、リアル脱出ゲームに近いような感覚の作品だ。
2時間を過ぎるとゲームオーバーで、エンディングはゲーム内での行動次第で変わるマルチエンディング方式だ。
一人称視点でゲームは進み、3Dで作られた世界で様々な場所を調べて情報を集めるという、内容自体は非常にオーソドックスなADVゲームとなっている。
では何故、「Dの食卓」はこんなにも注目されたのだろうか。
まず第一に、今でこそ当たり前になっている3Dグラフィックスだが、30年前の当時はまだまだ当たり前ではなかった。「Dの食卓」では3DOというハードの特性である高画質のムービー再生機能を最大限に活かしたゲーム作りがされており、プレーヤーにこれまでにない没入感を与えたことが挙げられる。
また、ADVゲームにしては珍しく、文章がほとんどなく、映像だけでの表現にこだわっていたのも、本作の特徴だ。いわゆるチュートリアルらしい説明文もなく、プレーヤーは眼前に広がる異様な3D空間を手探り状態で進むことになるが、それは突然異世界に囚われたローラと同じ感覚でプレイができるということになる。何もわからないローラの恐怖感・不安感と、プレーヤーが抱く感情は、まさしく同じものだったと言えるだろう。
2時間という、長いようで短い制限時間の設定も良く、「これで合っているのか? 違うのか?」というプレーヤーの不安を煽りつつ、制限時間に焦り、気の抜けないスリリングな2時間を過ごすことになる。しかも本作はセーブ不可のため、2時間をぶっ通しでプレイしなければならない。そこが遊びにくいとも感じられるかもしれないが、だからこそ本当に緊張感のある2時間を過ごすことができた。
もちろん、バッドエンドになってしまった場合は、再び最初からのやり直しになってしまう。最近のゲームからすると唸る部分もあるかもしれないが、筆者は「ゲームが上手い下手に限らず、基本的に1周が2時間で終わる」という部分を評価している側の人間である。
本作でシナリオとディレクターを務めた飯野賢治氏が意識したという本作の「物語性」を感じ取るにも、この2時間というぶっ通しでのプレイが重要だったということがわかる。セーブ、ロードができるADVゲームというのは、どうしても最終的に残るのは「作業感」だが、飯野氏はこれを嫌ったのだ。
ちなみにADVゲームなので、今回はストーリーの内容についてはネタバレを避けたい。ストーリーは2時間のゲームプレイに収まる内容なので、ボリュームはそこまでないのだが、それでもゲーム中に差し込まれる幻影のようなムービーや、ホラー的な演出、徐々に明かされるショッキングな内容は、短いながらも実に濃厚な時間であった。
「Dの食卓」というタイトルに込められた意味も全ての謎が明かされればわかるようになっており、ぞわりときたのを今でも覚えている。
様々なゲームハードが出るたびに、そのハードの性能を活かした革新的な作品というのは発売されたものだが、「Dの食卓」もインタラクティブムービーを活かしたホラーゲームということで、当時非常に斬新な体験を与える作品となったのだ。
今ではそういう意味で珍しい作品ではなくなってしまったため、当時我々が味わったような「なんだ、このゲームは」という感覚にはなれないのは残念ではあるが、ひとつの歴史を作るきっかけになったゲームだったのだということは、覚えておいてほしい。
なお、本作には女性のファンも多い。かくいう筆者も女性なのだが、その理由のひとつに、美麗なグラフィックスと映画を一本見る感覚で遊べるというのもあったと思う。また、前述の通り、ゲーム初心者でもゲーム熟練者でも、ほぼ同じスタートラインで遊べるような作品作りになっており、これまであまりゲームに触れてこなかった女性でも肩をならべて入りやすかったのも、理由として挙げられるだろう。
鬼才・飯野賢治氏について
本作でシナリオとディレクターを務めた飯野賢治氏は、2013年2月20日に、高血圧性心不全によって死去。まだ42歳という若さだった。
飯野賢治氏
本稿では、その飯野賢治氏についても触れていきたい。
飯野氏の作品で代表的なものは、
「Dの食卓」(1995年)
「エネミー・ゼロ」(1996年)
「リアルサウンド ~風のリグレット~」(1997年)
「Dの食卓2」(1999年)
【エネミー・ゼロ】
【リアルサウンド ~風のリグレット~】
などが挙げられる。2013年2月20日に亡くなるまでは一度ゲーム業界を離れて小説家などとしても活躍していた。
また、2008年8月25日には「moon」のクリエイターでもあるRoute24代表の西健一氏と共同開発したiPhone/iPod touch用アプリ「newtonica」をリリース。発売直後に日本のApp Storeランキング1位となり、世界各国でもチャートインを果たした。さらに2008年12月に「newtonica2」、2009年1月に「newtonica2 resort」をリリースしている。
2009年3月26日にはWiiウェア「きみとぼくと立体。」を任天堂ブランドタイトルとして発表。飯野氏はその企画・ディレクションを担当し、ゲーム業界へと再び戻ってきたのだ。
【きみとぼくと立体。】
飯野氏の作品といえば「Dの食卓」に限らず、「エネミー・ゼロ」や「リアルサウンド ~風のリグレット~」の名前だけでも知っているという人も多いのではないだろうか。
「Dの食卓」が古城を舞台にしたADVだったのに対して、「エネミー・ゼロ」は宇宙を舞台にしたSF作品となった。「エネミー・ゼロ」の名前から推察できる通り、敵の姿は見えず、生命探知機を使って敵を探し出して戦うアクションアドベンチャーとなっており、その難易度の高さにクリアできないプレーヤーが続出してしまった。
そして「リアルサウンド ~風のリグレット~」では再び完全なアドベンチャーゲームに戻り、インタラクティブサウンドドラマを発売している。こちらは映像が一切存在せず、音だけでプレイするという内容になった。プレーヤーは音を聞いてストーリーを楽しみつつ、選択肢によってストーリーが変化する、マルチエンディング形式だ。
こうした飯野氏の作品はいずれも斬新で、飯野氏だから作ることができた作品、というものだらけだった。
一方、飯野氏本人は様々な逸話を持つ人物で、特に「エネミー・ゼロ」では発売ハードを急遽プレイステーションからセガサターンに変えるといった事件を引き起こしたことでも有名だ。
また、自身の作品レビューへの反応も辛辣な部分があり、自身の作品に絶対的な自信を持っていたことが伺える。
それもあって、本稿を書くことは果たして今は亡き飯野氏にとって喜ばしいことであるのか、はたまた怒られることとなるのか、筆者もわからないのだが、少しでも飯野氏の作品について再び触れてもらえる機会や、思い出に浸る機会をこうして与えてもらえたことに感謝している。
飯野氏が存命だったなら、と今でも思いを馳せることがある。より進化したハードで、飯野氏ならばどんなゲームを作っただろうか。
飯野氏には常に、「既に誰かが通った道を通りたくない」というような信念があり、実際飯野氏は真の意味で「これまで誰も作らなかった作品」を作ってきたクリエイターだと思う。
だが、「これまで誰も作らなかった作品」=ヒット作になる、というわけではないため、飯野氏の作品は良くも悪くも賛否両論的な部分もあった。
「Dの食卓」も初回プレイで真エンディングにたどり着いてしまえば、たった2時間で終わってしまうゲームだとも受け取れる。フルプライスを払って2時間で終わってしまうというのは、コストパフォーマンスとしては確かに悪い。だが、飯野氏の作品には、コストパフォーマンスだけでは語れないおもしろさが備わっていたと思う。2時間という時間制限のなかでの没入感、ドキドキ感、恐怖感、臨場感、これは30年経っても記憶から消えることがない体験だった。
「Dの食卓」から30年、ゲームの世界はだいぶ変わった。飯野氏がゲーム業界に与えた影響を振り返るにも、ちょうどよい節目の年だと思う。
「Dの食卓」は日本語化はされていないものの、Steamでプレイすることが可能なので、ぜひまだプレイしたことがない人はプレイしてみてほしい。もちろん当時のプレーヤーも再びプレイしてみてもらえれば幸いだ。
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