©山口つばさ/講談社 ©2024 映画「ブルーピリオド」製作委員会

この夏、俳優・高橋文哉(23)が新境地を開きました。その姿は、8月9日より全国公開される映画『ブルーピリオド』(配給:ワーナー・ブラザース映画)で、拝むことができます。ひと足先に高橋の新たな一面に触れた筆者が、その魅力についてご紹介します。

※この記事には、映画『ブルーピリオド』予告編の範囲をこえるネタバレは含みません。

◆高橋文哉はたしかに“ユカちゃん”として存在していた

映画『ブルーピリオド』の原作は、山口つばさ氏による同名漫画。「TSUTAYAコミック大賞」「このマンガがすごい!」など国内の主要漫画賞へのノミネートや「マンガ大賞2020」受賞に加えて海外でも絶賛されており、累計発行部数は700万部を超える大人気作品です。

空っぽだった主人公の高校生・八虎(やとら/眞栄田郷敦)が、1枚の絵をきっかけに美術の世界に惹きこまれ、国内最難関の東京藝術大学を目指して奮闘する物語。

高橋が演じているのは、八虎の同級生で女性的な容姿をもつユカちゃんこと鮎川龍二です。ユカちゃんは自分の“好き”について葛藤しながら、日本画で藝大を目指しています。初登場のシーンでは「この女の子、誰?」と、分からないほどに高橋は“ユカちゃん”としてスクリーンのなかに存在していました。

◆心身ともに徹底した役作りで表現されたもの

「僕がやれる事やるべき事やりたい事をユカちゃんや八虎のようにこの作品に詰め込んでおります」(映画『ブルーピリオド』公式サイトより)とコメントした高橋。その意気込み通り、8kgの減量と脱毛をして撮影に挑んだといいます。さらに同映画のパンフレットによると、見た目だけではなく、日常生活でもヒールを履いて内股で過ごしてみたり、ユカちゃんの香りっぽい香水を身につけたり、ネイルを施してみたり、研究に勤しんだとか。

実際、高橋のユカちゃんとしての見た目に驚いたのは登場時だけ。その佇まいを含めた外見的な違和感がまったくなかったからこそ、観客は素直にユカちゃんの台詞や心情に寄り添うことができるのです。

自分の“好き”に正直で、自由に生きているかのように見えるユカちゃんですが、家族や世間から求められる龍二とのギャップに悩んでいることが徐々に見えてきます。八虎と対峙していくなかで、心の内を少しずつ繊細にあらわにしていく表現はユカちゃんの内面を徹底的に掘り下げた高橋だからできたこと。明るくチャーミングな笑顔のユカちゃんが、八虎に弱さをのぞかせる場面は特に秀逸でした。

◆「俺は死んでやる」ユカちゃんの心の叫び

最も高橋に驚かされたのは、予告編にもある「世間がいいっていうものにならなきゃいけないなら、俺は死んでやる」のシーン。ユカちゃんの心の叫びを、印象的に見せていました。そして八虎とともに「自分は何者なのか?!」という問いに、全身全霊で向き合おうと見せた“強さ”には心が震えました。

この作品を通じて、主人公・八虎を演じる眞栄田は「夢のもつ熱量」を表現しましたが、高橋は「夢のもつ儚さ」を表現していたように思います。その対照性があったからこそ、単にキラキラした青春映画ではない、深い人間ドラマとして心に残る作品へと昇華されているのではないでしょうか。つまり、高橋の功績は実に大きい! 映画のキャッチコピーである「情熱は、武器だ。」の言葉の通り、高橋が作品に注ぎ込んだ情熱を、想いを、劇場で存分に受け取ってほしいと思います。

◆ドラマではガラリと印象を変えて「一人二役」

一方、高橋は現在放送中のドラマ『伝説の頭 翔』(テレビ朝日系、金曜よる11時15分〜)で、一人二役に挑戦中。一人は1000人を超えるヤンキーたちを従える不良チーム「グランドクロス」を束ねる伝説の頭・伊集院翔。そしてもう一人は、クラスでもまったく存在感がなく、万年パシリ・山田達人。

偶然出会ったふたりが、容姿のそっくりさを理由に人生を交換することになりました。見た目は一緒ですが、声のトーンに話し方や目の動き。それだけで、翔なのか達人なのかがすぐに分かる。高橋の演技力が存分に発揮されています。

圧倒的な表現力をもつ高橋の魅力を、さまざまな角度から感じられる夏になりそうです。

<文/鈴木まこと(tricle.ltd)>

【鈴木まこと】
tricle.ltd所属。雑誌編集プロダクション、広告制作会社勤務を経て、編集者/ライター/広告ディレクターとして活動。日本のドラマ・映画をこよなく愛し、年間ドラマ50本、映画30本以上を鑑賞。Twitter:@makoto12130201

Write A Comment