大河ドラマ『べらぼう』“美女の全裸遺体”登場にも「今さら驚かない」ワケ。もっと攻めてた“NHK作品”を忘れてはいけない

 1月5日にNHK大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』(日曜午後8時〜ほか) の1話が放送された。その中で、亡くなった貧しい遊女たちが裸にされ無惨に葬られるシーンがあり、大きな反響を集めている。うつ伏せではあるが臀部がしっかりと映っており、SNSでは「NHK攻めすぎ」といったNHKの前衛的な姿勢に関する声が相次いだ。

 江戸時代のメディアプロデューサーとしてヒット作を連発した蔦屋重三郎(横浜流星)をモデルにした本作。当時の遊女たちがどのような扱いを受けていたのかを真正面から示す演出だったことがうかがえ、制作陣の覚悟が感じられた。

 子どもが視聴している可能性を指摘するなど、批判的な声もあがり賛否両論といったところではあるが、賛否ともにNHKの攻めっ気に関する声が寄せられている。とはいえ、「NHKの作品が攻めている」のは今に始まったことではない。

◆センシティブなテーマにも果敢に挑戦

 2024年4月期には代理出産をテーマにした連続ドラマ『燕は戻ってこない』、2023年3月には生理をテーマにした単発ドラマ『生理のおじさんとその娘』が放送された。いずれもセンシティブなテーマであり、炎上リスクが高い。しかし、ここ数年はそういった題材を軸にしたドラマを躊躇(ちゅうちょ)なく制作している。なにより、どちらのドラマも炎上せずに高く評価され、社会的な意義を唱える内容だったことは特筆すべきだ。

 また、2024年10月から放送されたアニメ『チ。-地球の運動について-』からも攻めの姿勢を感じざるを得ない。原作漫画は拷問シーンが多く、アニメではどのように表現されるのかが注目された。14話ではオクジーがノヴァクから拷問器具“苦悩の梨”を使用されるシーンがあるが、原作ではオクジーの頬は裂かれてしまう。当然、アニメではオクジーの裂けた頬は描かれなかったが、声優陣の熱演やBGMによる演出なども相まって、その絵がなくとも原作通りの凄惨さが表現されていた。

◆日本では珍しい制作手法で成功した作品

 制作方法も攻めている。2024年10月から放送されたドラマ『3000万』では、複数の脚本家が脚本開発チームとして分業して制作を進めるプロジェクト「WDR(Writers’ Development Room)」を実施。互いのアイデアや得意分野をかけ合わせることで完成度の高い脚本を開発する手法で、海外ドラマでは定番化しているものの、日本ではあまりなじみがない。

 WDRが功を奏したのか、上質なクライムサスペンスに仕上がっている。恐怖心を刺激されるハラハラ展開がメインではあるが、主人公たちが選択を間違え続ける様子はどこか“喜劇的”。怖さの中にも笑みがこぼれてしまう緻密なストーリーだった。

◆攻めのキャスティングでヒットドラマに

 表現やテーマ、制作方法など挑戦的な姿勢を近年のNHKのドラマからは感じられる中、攻めのキャスティングも目立つ。

 2024年のヒットドラマ『宙(そら)わたる教室』では、主人公の教師は窪田正孝が務めたが、主要キャストである生徒の小林虎之介や伊東蒼らはドラマ通からは知られているものの、一般的な知名度が高い役者ではない。嫌な言い方をすれば、キラキラしたキャスト陣とは言い難い。しかし、いずれの役者もまさにハマり役と言えるほどの好演を見せ、ドラマの魅力を最大限に引き上げていた。

 NHKは視聴率やスポンサーの意向などに、民放ドラマほど気を使う必要がない。だからこそ、攻めた、もとい適した座組にできることもNHKの強みである。その強みが近年顕著に見られ、結果的により良い作品の連発につながっているように思う。

◆“何も起こらないドラマ”が話題に

 NHK BS、NHK BSプレミアム4Kではあるが、2024年9月から放送された『団地のふたり』も別の意味での攻めっ気を感じた。本作は団地で生活する野枝(小泉今日子)と奈津子(小林聡美)をメインとしたホームドラマ。殺人も復讐も不倫も心理戦もなく、登場人物による日常の延長線上にあるドタバタが繰り広げられるのみ。考察ブームの昨今、一切“SNS映え”しない内容ではあるが、その緩やかな雰囲気が多くの視聴者を虜にした。

 SNSの反響率が重要視される傾向は年々高まっている中、“ほぼ何も起こらないドラマ”を放送できることはすごい。そして、話題作にしてしまっているのだからなおさらすごい。それもこれもNHKの攻めの姿勢が大きい。『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』をはじめ、2025年もNHKの攻めたドラマに期待したい。

<文/望月悠木>

【望月悠木】
フリーライター。主に政治経済、社会問題に関する記事の執筆を手がける。今、知るべき情報を多くの人に届けるため、日々活動を続けている。Twitter:@mochizukiyuuki

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