昔に比べ、街中や公園で転ぶ子を目にするケースが増えていませんか?運動神経と関係しているのでしょうか?それともほかに原因が?順天堂大学教授の相澤純也さんは「身体能力の二極化」を感じているそうです。(全2回中の1回)

【写真】「運動神経じゃないのか!」転びやすくなった3つの原因 など(全5枚)

転び方が下手だと大ケガや骨折につながる?

── 中高生でよく転ぶ子が増えているそうですね。これはどういう状況なのでしょうか?

相澤先生:中学や高校のバスケットボール部の顧問をしている教員から、10年以上前と比べて、よく転ぶ生徒が増えていると聞きました。以前であればつまづいても踏ん張れていた場面でも、いまの生徒たちは身体を支えきれず、転んでしまうのです。しかも、転び方がヘタな子が多く、大けがにつながるケースも。道路や床に手をついても身体を支えられません。手首に負担がかかり、骨折やねんざなどをしてしまいます。独立行政法人日本スポーツ振興センターが調査し、まとめた統計資料「学校の管理下の災害」によると、小学生から高校生までの子どもの骨折はこの30年で約1.5倍増えているといいます。

転びやすくなった原因(1) 肥満児童の増加

── なぜ転ぶのがヘタなのでしょうか?

相澤先生: 幼児期に外遊びの経験が不足し、転ぶ経験が積めないのが大きな原因と考えられます。幼いころは体重が軽くて身体がやわらかいため、転んでも上手に受け身がとれ、身体を支えることができます。自然とケガをしない転び方を学ぶことになるんです。ところが、幼児期に身体を動かす経験が少ないと、転び方を習得しないまま成長してしまいます。体重が増え、身体が硬くなってからだと、ちょっとした転倒でもケガにつながるのです。つまり、幼い時期に身体を動かす機会が減ったことで、運動機能が低下している可能性があります。

一方で、部活や運動教室などに積極的な生徒たちも少なくありません。こうした子どもたちは身体能力が高い印象で、「運動をする子」と「そうでない子」の二極化されているようにも感じます。

「外遊びの減少」が子どもの運動機能低下を招く

── 子どもの運動機能は、具体的にどれくらい低下しているのでしょうか。

相澤先生:平成20年からスポーツ庁は「全国体力・運動能力、運動習慣等調査」を実施しています。これは全国の小学生5年生と中学生2年生を対象とし、全国の子どもたちの体力や運動能力、運動習慣などを把握・分析し、課題の検証や改善を図ることを目的としています。この調査結果によると令和3年度の体力合計点は令和元年度に対して、小中学生の男女ともに平均で2.0ポイント低下したことがわかりました。調査を開始した平成20年から横ばい、または微増傾向にあったのですが、令和3年度の調査では低下が認められたのです。

── こうした体力低下の主な原因として考えられることはありますか?

相澤先生:スポーツ庁は体力合計点の低下の主な原因として「運動時間の減少」「学習以外のスクリーンタイム(平日1日当たりのテレビ、スマートフォン、ゲーム機などによる映像の視聴時間)の増加」「肥満である児童生徒の増加」をあげています。さらに、拍車をかけたのがコロナ禍の影響です。当時は外で遊ぶ機会が減り、学校でも体育の時間が減りました。その影響を受けているのではないかとスポーツ庁は示しています。

運動のしすぎも問題「オスグット病」に注意が必要

── 運動時間の減少により、子どもの健康への心配はありますか?

相澤先生:運動をしないからといって、いきなり病気に直結するわけではありません。ただ、先ほどお伝えしたように、骨折などケガのリスクが増える可能性があります。人間の身体は20歳までの間に大きく成長します。運動をして適度な負荷を与えることで、骨や筋肉、腱は丈夫になっていきます。この時期に動かないでいると、身体が強くならないのです。また、エネルギーを消費しないため、肥満や体脂肪率の増加などが起こり、それが健康を損なうこともあり得ます。

だからといって、過度に運動をしすぎるのも身体に負担がかかります。成長期の子どもに多いスポーツ障害の代表的な疾患として、「オスグッド病」が挙げられます。この疾患はひざのお皿の下の骨が突き出てきて、痛みやはれなどの症状が起こります。中学生や高校生くらいの時期は、やわらかい骨から硬い骨へと成長する過程にあります。ところが、腱が育つスピードに骨の成長が追いついていません。こうした不安定な状態でひざを使いすぎると、オスグッド病をはじめとしたスポーツ障害を発症するのです。転倒やスポーツ中のケガを予防するには、成長過程に合わせた、適切な姿勢や身体の使い方を土台とし、運動による適度な負荷が大切です。

PROFILE 相澤純也先生

あいざわ・じゅんや。順 天堂大学 保健医療学部 理学療法学科教授。大学院保健医療学研究科 理学療法学専攻。一般社団法人日本スポーツ理学療法学会理事長。

取材・文/齋田多恵 写真/PIXTA

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