爆風スランプ不朽の名曲にインスパイアされた映画『大きな玉ねぎの下で』が、2月7日より全国公開されます。ノートや手紙での交流を通じて「顔も知らない相手」に恋をする人々を描いた作品。主人公を温かく見守る先輩、篠田沙希を演じた山本美月さんに、作品について、また手書き文字から始まる恋愛について話を聞きました。柔らかい雰囲気に包まれた現場で
――本作は、夜はバー、昼はカフェになる「Double」でそれぞれ働く神尾楓珠さん演じる丈流と、桜⽥ひよりさん演じる美優が、お互いの素性も知らぬままバイトノートを通じて惹かれあっていくストーリーです。美優の先輩・篠⽥沙希を演じられ、恋に仕事にと奮闘する美優を見守る眼差しが印象的でした。
山本美月さん(以下、山本): 美優とは先輩と後輩という関係性だったので、撮影中は姉のような気持ちで、美優の幸せを祈りながら見守っていました。桜田ひよりちゃんとは初めて共演させていただきましたが、とても一生懸命でかわいらしい方です。ただ、かわいらしさもある一方で、現場では、物怖じすることなく堂々と演じられている姿が印象的でした。もしかしたら内心は緊張していたのかもしれないけど、そうはまったく見えなくて。頼もしかったです。
私もひよりちゃんもモデルのお仕事もさせていただいているのですが、撮影の合間には、ひよりちゃんが最近のトレンドを教えてくれました。骨格診断とか、イエベ・ブルベといったパーソナルカラーの話とか。
――そうした現場での会話が、作品中の、姉妹のような先輩・後輩の雰囲気につながったのでしょうか。
山本: そうですね。とにかく現場の雰囲気がよくて。草野翔吾監督の柔らかい雰囲気が現場全体を包んでくださっていたような気がします。私たち役者に対しても、なんでもやってみていいよ、と自由な雰囲気をつくっていただきました。それもあってちょっとしたアドリブもどんどん飛び出して、すごく心地よい環境でお芝居をさせていただくことができました。
コメント欄を通じた、顔の知らない人とのやりとり
――1985年にリリースされた同名ヒット曲は、会ったことのないペンフレンドと、“大きな玉ねぎの下で”、つまり日本武道館で待ち合わせをする切ないラブソングです。曲の発売は山本さんが生まれる前ですが、この曲のことを知っていましたか?
山本: 実は、この映画に出演させていただくことが決まったのをきっかけに初めて聴きました。なんとも“エモい”曲だなあ〜と感じましたね。顔の知らないペンフレンドと待ち合わせをすることはなかなかないし、「九段下」「千鳥ヶ淵」と具体的な地名が出てくるところも、情景が頭の中に浮かんできて。今聴くと、新鮮だなと思いました。
――SNSで簡単に繋がれる時代からすると、曲の世界観が「懐かしい」というよりは「新しい」と感じられるのかもしれませんね。山本さんはこれまで、文通をしたことはありますか?
山本: ないんです。でも私が10代の頃は、ウェブ上で自分のホームページやプロフィールページをつくるのが流行っていて、そこで自分の書いた小説を公開していたことがあります。読者が登場人物の名前を自由に設定して読むことのできる、ドリーム小説を……もう黒歴史なのですが(笑)。そのページを通じて、顔の知らない読者とコメントのやりとりをすることはありました。
コメントしてくれる読者の名前を見て「女の子だな」という程度のことはわかるけれど、それ以上の情報はまったくわからない。私の小説を読んでくれたあの子が今もどこかにいるのだろうと思うと、ふしぎな気持ちになります。
――そうした「文字」を通じて恋愛が始まることについて、山本さんは共感しますか?
山本: うーん、どうだろう……。自分にはそういう経験はないけれど、何かのきっかけになるかもしれないですよね。「好き」まではいかないとしても「ちょっと気になる。会ってみたい」って。
でも文字を通じて知るのと、実際に会話をするのとは、少し違うような気がするんです。最近ではマッチングアプリのようなサービスもありますが、アプリ上でのやりとりと実際の会話で、少しギャップを感じるのは自然なことだと思います。だから、もし文字でのやりとりが盛り上がって、実際に会ったときにも「素敵だな」と思えたとしたら、それはもう運命なんじゃないかな。
手書きの手紙に、親子で絵を添えて
――物語では、連絡用のバイトノートに丈流と美優が個人的な趣味や悩みを綴るようになり、心の交流を深めていきますが、山本さんは日常生活であえて手書きのやりとりをすることは?
山本: 文字を書くのがあまり得意ではないので、あまり積極的にはしないのですが、親しい人に対して手紙を書くことはあります。最近では、友人の誕生日に。家族ぐるみで交流があるので、手紙に私がキャラクターの絵を描いて、私の子どもにも描いてもらって。まだ絵は描けないので、ぐしゃぐしゃと線を描いてくれました。そういうやりとりができるのは、手書きならではですよね。
――手紙をくれた相手がそれを書いているときの様子を想像したり、あとで見返したときに愛おしい気持ちになったりと、手書きの文字や絵には、相手への思いをめぐらせる余白や温かみがあるような気がします。本作も、誰かを大切にしたいという温かさに満ちた作品になっていますね。
山本: 優しい気持ちになれる作品です。登場人物の背景には、それぞれの物語がありますが、どの人も温かくていい人ばかり。こんな世界だったらいいなと思うような優しい空気感を、映画を通じて感じていただけたら嬉しいです。