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感謝の念は、それを伝える言葉に宿る。丁寧すぎて堅苦しい言葉遣いは避けて、さりげなく使える敬語美人を目指そう。
感謝を表す言葉を磨こうシンプルで心地よい“ほどよい敬語”で、「盛りすぎ敬語」脱却術。
言葉遣いが素敵だと、感謝の気持ちはより伝わりやすい。特に敬語は、相手に対する尊重と敬意を示す最良の手段で、適切に使えるようになると印象もアップする。「しかし自分の見られ方ばかりを気にして、やみくもに敬語を多用する『盛りすぎ敬語』は、相手に違和感を与え、コミュニケーションにダメージを及ぼしかねない」と、『その敬語、盛りすぎです!』の著者・前田めぐるさん。
「敬語は、正しく使うことはもちろん大切ですが、それ以上に“ほどのよさ”を心がけるべきです。上から目線でもなく、かといって必要以上にへりくだりすぎず、ほどよい敬語を使える人は潔い印象を与えます。また見せかけではない、生きた言葉が身につくと、どんなシチュエーションでも自信を持って使えるようになり、その姿勢も含め、相手に感謝の意や誠意を示しやすくなります」
日頃から盛りすぎ敬語に注意し、迷った時は調べるクセをつけて、ほどよい敬語を身につけよう。
「盛りすぎ敬語」って?
その1. 過剰敬語
文字通り敬語を過剰に盛ること。言葉そのものを盛りすぎると、本来の意図が伝わらず誤解を招きやすい。
その2. 必要以上に自分を良く見せようとする“盛りすぎ”
空気の読みすぎで見せ方を盛りすぎて、おかしな敬語になってしまうこと。SNS時代の背景も影響している。
→深掘りすると4つの〇〇すぎが!
【盛りすぎ】
二重敬語など、主に敬語を盛りすぎてしまう表現。文法的な誤りは誤解を招き、違和感を与えかねない。
【へりくだりすぎ】
自分側を卑下し、卑屈な印象を与えてしまう表現。丁寧すぎるとかえって無礼に見えてしまうこともある。
【失礼すぎ】
尊敬語と謙譲語の使い分けができていなかったり、誤った使い方でかえって失礼になったりする表現。
【流されすぎ】
みんなが使っているからと周囲の空気に流されてしまう表現。上の漫画に描いた「〜の方」が一例。
感謝に応える「ほどよい敬語」の作り方
どういたしまして + 相手を想う短い一文
例
・お役に立てて光栄です。
・お互いさまです。
・当然のことですよ。
相手から感謝の言葉を伝えられた時、曖昧な返事をしていない!? 常套句で終わらせず、お礼+率直な気持ちを伝えるとコミュニケーションが深まる。「英語の“You’re welcome.”にあたる『どういたしまして』で感謝に応えつつ、その後に『こちらこそいつもありがとうございます』など、一言付け加えると好印象です」
敬語を磨くおすすめ書籍
敬語にまつわる疑問点を収録。
『敬語再入門』菊地康人 著
敬語研究の第一人者による実践的な敬語入門本。豊富な実例に則した100項目のQ&A方式で、疑問点をやさしく明解に解説。「学術文庫のロングセラー『敬語』の姉妹編で、敬語を扱う日本人にとってバイブルともいえる一冊です」。巻末の敬語ミニ辞典も便利。講談社 1221円
正しい敬語表現が一目瞭然。
『「言いたいこと」から引ける 敬語辞典』西谷裕子 編
ふだん使っている言葉が50音順に羅列され、正しい敬語表現や間違い例を掲載。敬語を覚えたい初心者はもちろん、迷ったり気になったりした時にすぐ確認できる一冊。「辞書のように、『会う』『依頼する』など自分が使いたい言葉から引けるのが便利です」。東京堂出版 1980円
感謝のシチュエーション別 【「ほどよい敬語」に言い換えフレーズ集 】
感謝を伝える時に言いがちなNG表現をピックアップし、よりスマートな言い方をレクチャー。
脱・盛りすぎ
来社した取引相手にお礼メールを送る時
【NG】「本日はお越しいただき、恐悦至極に存じます」
【OK】「本日はお越しいただき、誠にありがとうございました」
◎Point
「恐悦至極」は、便宜を図ってもらった相手や式典の出席者へのフォーマルなお礼を述べるのにふさわしい言葉。いくら取引先でも、日常的なお礼メールで使うのは大げさ。
問い合わせへの返答をする時
【NG】「この度はお問い合わせをいただき、ありがとうございます。ご不明の点は何なりとおっしゃられてください」
【OK】「この度はお問い合わせをいただき、ありがとうございます。ご不明の点は何なりとおっしゃってください」
◎Point
「言う」の尊敬語の「おっしゃる」に、「れる」の尊敬語を加えた二重敬語。誤用かつ、まどろっこしい印象を与えてしまうので要注意。正しく使えば、信頼関係にも良い影響が。
脱・へりくだりすぎ
配慮を受けたことに対してお礼を言う時
【NG】「ご配慮に感謝させていただきます」
【OK】「ご配慮に感謝いたします」「ご配慮ありがとうございます」
◎Point
「させていただきます」は、許可を得て行うと見立てて使う謙譲表現なので、ここではへりくだりすぎ。もし、より深く伝えたいなら「心から」や「誠に」などを加えてもOK。
新商品を発売できることを周囲に伝える時
【NG】「今度新商品を発売させていただくことになりました」
【OK】「おかげさまで、今度新商品を発売できることになりました」
◎Point
「させていただく」という表現になってしまうのは、謙虚さを表したい気持ちからかもしれないが、ここでは不要。その気持ちを「おかげさまで」の言葉に託せば、よりスマート。
脱・失礼すぎ
アドバイスをくれた先輩にお礼を伝える時
【NG】「アドバイスをいただいた先輩のおかげで、プレゼンがうまくいきました」
【OK】「アドバイスをくださった先輩のおかげで、プレゼンがうまくいきました」
◎Point
アドバイスをいただいた(もらった)のは自分で、くださった(くれた)のは先輩だから、上の表現は間違い。最近、この「いただく・くださる」を混同する誤用が増えているので注意。
残業を手伝ってくれた上司に対して帰り際に
【NG】「本日はお手伝いくださり、ありがとうございました」
【OK】「本日はお力添えくださり、ありがとうございました。とても勉強になりました」
◎Point
目上の人に対しては「お手伝い」より「お力添え」を使うほうが、感謝が伝わりやすい。また「勉強になりました」「大変助かりました」など一言加えると、好感度アップ。
脱・流されすぎ
感謝の品を渡す時
【NG】「つまらないものですが、これ、感謝の気持ちです」
【OK】「いつも本当にありがとうございます。こちらの品、私も大好きなお店のものです」
◎Point
間違いではないが、「つまらないもの」「お口汚しですが」などと自分側を卑下する形式的な表現は、時流に合わなくなってきている。素直な気持ちを表して心地よい余韻を。
ごちそうになった相手にお礼を言う時
【NG】「何だか、すみません」
【OK】「ありがとうございます。お言葉に甘えてごちそうになります」「ごちそうさまです。とてもおいしかったです」
◎Point
「すみません」は謝罪のシーンでも使われるため、この場合は「ありがとうございます」のほうが心に響く。味についての感想や「次は私が」などの言葉を添えるとさらに喜ばれる。
PROFILE前田めぐるさん
コピーライター。近年は自治体や学校向けのSNS活用・文章術講師として活動。敬語の違和感についてまとめたブログ「ほどよい敬語」が人気。著書に『その敬語、盛りすぎです!』(青春出版社)など。
漫画、イラスト・なか憲人 取材、文・鈴木恵美
anan 2433号(2025年2月5日発売)より