大阪・堺筋本町のビジネス街に佇む「自家焙煎珈琲 濱田屋」。1968年に創業し、半世紀以上にわたり愛され続けてきた老舗喫茶店です。現在は、若きパティシエが経営を受け継ぎ、コーヒーの味を守りながらも新たなスタートを切っています。
焙煎室とパティスリー工房が店内に併設されている空間で、職人の手仕事を眺めながら味わう一杯のコーヒー。どこか懐かしく、それでいて新しい喫茶文化の形があります。今回は、そんな「濱田屋」の魅力と、進化し続けるメニューをじっくりご紹介します。
創業50年以上!歴史ある喫茶店が世代交代し、新たにスタート
「自家焙煎珈琲 濱田屋」は1968年に江坂に創業した老舗喫茶店。1986年に堺筋本町へ移転してからも、多くの人々に愛され続けています。窓際の席からは川と緑を望むことができ、ゆったりとした時間を楽しむことができます。
お店に足を踏み入れると、まず目に入るのが右側にあるガラス張りの焙煎室。ここでは焙煎士が、こだわりのコーヒー豆を丁寧に焙煎しています。豆の選別から焙煎、ブレンドまで一貫して行うスタイルは、創業当初から変わらない濱田屋のこだわりです。
その隣には、こちらもガラス張りの工房があり、専属パティシエがスイーツを仕上げる様子を外からも見ることができます。喫茶店でありながら、自家製スイーツの製造にも力を入れているのが濱田屋の大きな特徴。特に名物のシュークリームは、訪れる人々を虜にする逸品です。
店内は、長年培われた温かみのある雰囲気が漂い、古くからの喫茶文化を守りながらも、新たな風を取り入れようとする姿勢が感じられる空間。
2024年の夏からは、新たな経営者として瀬尾貴志さんが舵を取ることに。かつてアルバイトをしていた思い入れのある濱田屋を引き継ぎ、「ママ(濱田さん)が築いてきた空気感を残したい」と語ります。長年通う常連さんにとっても、新しいお客様にとっても、変わらぬ居心地の良さを提供し続けるために、伝統と革新を融合させた新たな濱田屋の挑戦が始まっていました。
脱サラして製菓専門学校へ。異色の経歴を持つ、数字に強いパティシエ経営者
聞けば、1990年生まれだという瀬尾さん。これからの喫茶文化を担う若き経営者です。もともとは、量販店向けの洋菓子製造企業で経理としてキャリアをスタート。コンビニやスーパーなどの依頼を受け、全国で販売されるスイーツを開発・製造する中、経理と生産管理を通して商品の原価計算や効率的なオペレーションの管理を経験したそうです。
「よく驚かれるのですが、コンビニスイーツの利益は1個あたり2円程度なんです。全国規模で大量に販売されるからこそ成り立つビジネスであり、ほんのわずかな無駄が利益を大きく左右する世界。秒単位の生産管理、1円単位のコストという環境で仕事をしていました」
また、瀬尾さんは「自分たちが作る商品がどのように生まれるのか」を知りたくなり、商品開発の部署に興味を持つように。いつの間にか、開発業務にも関わるようになったものの、専門知識が不足しているためにクライアントの要望に応えられず、悔しい思いをしたのだとか。その経験がきっかけで、製菓の専門学校へ進学し、パティシエとしての技術を基礎から学び直したそうです。そして、その当時にアルバイトをしていたのが、まさに濱田屋だったのです。
専門学校を卒業後、パティスリーに就職するものの、わずか3ヶ月で退職。そのタイミングで、かつてのアルバイト先の社長から「テナントがあるから、店をやらないか?」と声をかけられます。突然の誘いに驚きながらも、「若いうちに経験できることはしておきたい」と25歳で独立を決意。難波に自身のケーキ店をオープンし、なんと3年間で3店舗にまで展開したそうです。
若くして成功を収めた秘訣は、サラリーマン時代に培った「数字を読む力」。どこに課題があるのか、どうすれば利益を出せるのかを冷静に分析し、効率的な経営を実践したことで、事業を拡大することができたのだとか。その後店舗の経営は当時の2番手に託して、瀬尾さんは卒業。現在は濱田屋を経営しながら、飲食店向けのコンサルティングも行っています。
パティシエとしての確かな技術、経営者としての実力、そして数字を読む力を兼ね備えた瀬尾さん。彼が手掛ける濱田屋は、老舗の伝統を守りながらも、新しい時代に合わせた進化を遂げています。
伝統と革新が生み出す、香り高き絶品スイーツと秘伝の珈琲
「自家焙煎珈琲 濱田屋」では、長年愛される「濱田屋ブレンド」をはじめとした、こだわりの珈琲が楽しめます。なかでも「濱田屋ブレンド」は、創業者の濱田さんが今でも自ら焙煎を手掛ける秘伝の一杯。すっきりとした味わいの中に、ほどよい苦味とコクがあり、雑味のないクリアな後味が特徴です。そのほか、バリスタによるストレートコーヒーも提供されており、季節ごとのブレンドや、珍しい中国産のコーヒーなど、こだわりのラインアップ。
そんな珈琲にぴったりのスイーツが、「濱田屋」のもうひとつの魅力。特に注目したいのが、季節ごとに変わるエクレアと、看板メニューのシュークリームです。
イートイン限定、華やかな香りの「エクレール”あまおう”」
今の季節限定で登場しているのは、旬の「あまおう」をたっぷり使用したエクレア。その魅力は、香りの層が幾重にも重なった、贅沢な味わいにあります。
まず、サクサクのシュー生地の中には、タイベリー(ラズベリーとブラックベリーを掛け合わせた品種)のピューレにラズベリーの香りを移した自家製コンフィチュール。そこに、バニラのカスタードクリームとクリームチーズを合わせた濃厚なクリームが重なります。
実はこのクリーム、さくらんぼのリキュールを隠し味にしていて、一口食べるとふわっと華やかな香りが広がる仕様。
そしてその上には、みずみずしいあまおうをたっぷりと並べ、ザクロとラズベリー果汁を合わせたガナッシュモンテをたっぷり。仕上げにルビーチョコレートでコーティングし、ドライストロベリーとドライローズを散らすことで、見た目も美しく仕上げられています。
こうして構成を聞くと「かなり重そう?」と思うかもしれませんが、実際には酸味やフルーティーな香りが効いていて、驚くほど軽やかに食べられる仕上がり。テーマは「香り」とのことで、スイーツでありながら、まるで高級な香水のような奥行きを感じる逸品です。提供は2月末まで。3月以降も苺のエクレアは登場予定ですが、デザインを変える予定とのことです。
テイクアウトOK!名物シュークリーム「シュークリム」はカルピスバター使用の贅沢な味わい
「濱田屋」といえば、名物「シュークリム」も外せません。実は、1986年に堺筋本町へ移転した直後、経営がピンチに陥った際に“起死回生”の一品として生まれたのが、この商品でした。当時の店主・濱田さんは、それまでスイーツ作りの経験はなかったものの、ある日「シュークリームを作らなきゃ」と夢でひらめき、神戸の有名店へ修行へ。その後、独自のレシピを開発し、今では「濱田屋」の看板メニューとなっています。
現在、瀬尾さんがそのレシピを少しだけ改良。シュー生地には水を一切使わず、牛乳のみを使用することで、コクを深めながらも軽い食感を実現。クッキーシューではないのに、外はカリッと焼き上げられていて、かじるとサクッと軽やかな音が響きます。
中のカスタードクリームは、ぎっしりと詰められていて、隙間なしの満足感。バニラ不使用ですが、驚くほど香り高いのが特徴です。その秘密は、「あえてカスタードクリームを焦がしている」こと。一般的にカスタードは焦がさずに炊き上げるのが基本ですが、瀬尾さんは「試しにやってみたら美味しかったから(笑)」と、実験的なアプローチで誕生したそうです。
カラメル化させながら炊くことで、クリームに奥深いコクと香ばしさをプラス。ほんのりビターなニュアンスが、甘すぎず、コーヒーとも相性抜群。ちなみに、カスタードを焦がすのは「経験者ほど難しい」とのこと。火加減を間違えると一気に焦げすぎてしまうため、ちょうどいい塩梅を見極める職人技が求められるそうです。
この「シュークリム」、その日の朝に焼いた生地しか提供しておらず、朝イチで食べるのがベスト。一番香り高く、サクサク食感のシュークリームが味わえます。お店に並ぶのは開店後の9時以降とのこと。ちなみに、売れ残ったシュー生地はラスクにして販売されるのですが、これもまた絶品!朝シュー派も、ラスク派も、どちらもぜひ試してみてほしいです。
「濱田屋」では、長年愛される珈琲と、進化し続けるスイーツが共存し、伝統と革新が見事に融合しています。ふらりと立ち寄ったら、きっと新しい味わいの発見があるはず。
歴史をつなぎ、新たな時代へ
半世紀以上にわたり、江坂と堺筋本町で親しまれてきた「自家焙煎珈琲 濱田屋」。歴代の店主が受け継いできた味わいと、時代に合わせた進化が見事に融合し、今もなお多くの人を惹きつけています。
瀬尾さんが引き継いでからは、珈琲の伝統を守りつつ、パティシエの経験を活かした季節ごとのスイーツが加わり、新たな魅力が生まれました。特に、あまおうを贅沢に使ったエクレールや、昔ながらの味わいを残しつつ進化した「シュークリム」は、訪れる人々の心を掴んで離しません。
「濱田屋」は、ただの喫茶店ではなく、歴史を感じながらも新しい発見ができる場所。コーヒー片手に、ゆっくりと流れる時間を味わってみてはいかがでしょうか?
About Shop
自家焙煎珈琲 濱田屋
大阪府大阪市中央区本町1-1-3 本町橋西ビル1F
営業時間:平日/08:30 – 18:00(L.O. 17:30)、土・祝日/10:00 – 18:00(L.O. 17:30)
定休日:日曜日
Instagram:@hamadaya_cafe
あかざしょうこ
ウフ。編集スタッフ
関西方面のスイーツ担当。1984年生まれ、大阪育ちのコピーライター。二児の母。焼き菓子全般が好き。特に粉糖を使ったお菓子が好きです。