最新の調査(2024年12月ロッテ調べ)によると、週5日以上出社しているオフィスワーカーの約7割が「オフィスで集中できない」と回答し、半数以上が「集中しづらい」と感じていることが明らかになった。
【図を見る】意志が考える集中力を阻害する主な要因とは?
オフィス回帰により7割以上が「集中できない」
そこで、オフィスワーカーの働き方に「養生」の概念を提唱する医師の須田万勢先生にオフィスワーカーの集中力低下の改善策を聞いた。
■須田先生が考える集中力を阻害する主な要因
<外的要因>
・オフィス環境からの刺激
・人間関係によるストレス
・姿勢や食べ方などの生活習慣の変化
<内的要因>
・スマートフォンを中心としたデジタル
・デバイスからの過剰な情報入力
【図を見る】意志が考える集中力を阻害する主な要因とは?
従来の対策はなぜ効果が限定的だったのか。オフィスワーカーの働き方に詳しい医師の須田先生は、「これまでの企業研修などで実践されてきたオフィスワーカーの集中力に関するアドバイスは、“人間関係の改善”や“空間作り”など外的要因に対するコントロールに重点を置かれてきました。しかし、このような外的要因は個人でコントロールすることが難しく、効果が限定的でした」と語る。
■新しいアプローチ、「内的コントロール」による集中力向上
そこで須田先生がすすめているのが、個人が自身でコントロール可能な「内的要因」に着目したアプローチだ。具体的には、日常生活の中で小さくリセットする習慣としての「養生」を取り入れること。この「養生」とは、以下の5つの要素から構成される。
(1)食事の養生
・十分な咀嚼(そしゃく)を意識した食事(ひと口30回程度)
→結果として午後の集中力の低下を防ぐ効果が期待できる
・ガム咀嚼による集中力維持
(2)運動の養生
・デスクワークの合間に軽い運動を取り入れる
→短時間の運動による脳のリセット効果が期待できる
・姿勢の意識的な調整
(3)呼吸の養生
・浅くなりやすい呼吸を意識的に改善する
・定期的な腹式呼吸の実践
→呼吸を通じた自律神経の調整効果が期待できる
(4)睡眠の養生
・個人に適した睡眠の確保
・質の高い睡眠の実現
・デジタルデバイスの使用時間管理
■【重要なポイント(1)】養生の現代的解釈と実践
須田先生は現代のデジタル社会に伝統的な「養生」の考え方を適応させることが重要だと説く。特に、デジタルデバイスの常時使用が一般化している現代において、脳を適切に休ませることも養生の一環として重要視している。
「実は、集中力はルーチンになるような感覚刺激が有効だと考えられます。例えば、呼吸を意識的にコントロールすることで、すぐに集中力を高めることができます。1分間の呼吸回数を5回以下にすることで、マインドフルな状態になり、集中しやすい状態を作り出せることができます」と須田先生。
■【重要なポイント(2)】ガム咀嚼による集中力向上効果
須田先生「実は、咀嚼が集中力に大事な役割を果たしています。ただし、仕事中の食事や食べ続けることは難しいと思います。そこで、取り入れて欲しいのがガムです。最近ではオフィスでガムをかむ人は減っているようですが、集中力に関しては以下のような有用な効果が期待できることがわかっています」
<脳血流の増加>
・特に前頭葉(集中・注意力)の活性化
・海馬(記憶)の活性化
須田先生「かむという行為は、脳の血流を増やすことが知られています。特に前頭葉は集中をする、注意を向けるといった機能に関連する部位です。また、記憶に関連する海馬も活性化されることで、より効果的な“仕事ができる状態”が作られます」
<神経伝達物質への作用>
・セロトニン(リラックス効果)の分泌促進
・コルチゾール(ストレスホルモン)の分泌抑制
須田先生「脳内のホルモンや神経伝達物質の状態も変化します。具体的には、リラックスをもたらすセロトニンが出やすくなり、一方でストレスを感じる際に出るコルチゾールの分泌が抑制されます。集中を妨げる要因として、イライラや気持ちの荒れがありますが、これらをキャンセルしてくれる効果があるのです」
■須田先生が実践する集中力の入れ方
■仕事開始のルーチンとして
須田先生は、仕事を始めるときのきっかけ作りとしてガムを活用している。続けることで、ガムをかむことが集中モードに入るスイッチとして機能するようになるという。時間の目安は5分〜10分程度から始めて、慣れたら20分程度まで。
■タスクの切り替えのリセットとして
須田先生によると、ガムの味が薄くなる15分〜20分程度で、人の集中力も一度切れやすくなるという。このときにガムを捨てに行き、違う景色を見て戻ってくることで、いい気分転換になるそうだ。
■須田先生がおすすめするガムの選び方
・初心者は柔らかめのものから始める
・柑橘(かんきつ)系の香りはリフレッシュ効果が高い
・硬すぎると顎関節に負担がかかるので注意
■オフィスワーカーの集中力向上に最適な手段としてのガム
このような内的アプローチによる集中力向上の取り組みは、働き方改革やウェルドーイング(ウェルビーイングより積極的な行動をすること)の観点からも注目されているという。
須田先生「ストレスを小さくする習慣を身に着けることが大切です。特に自分でコントロールできる呼吸やガムの咀嚼などの手法は、すぐに実践できる効果的なアプローチとなります」
なかでもガムは、現代のオフィスワーカーにとって最も取り入れやすい解決策といえるかもしれない。小腹が空くと集中力の妨げになるが、チョコやクッキーでは血糖値が急激に上がり、その後下がったときにすぐに空腹感が戻ってしまううえにカロリーが高いのが難点。
一方でガムは、低カロリーながら満足感が得られ、不適切な間食も防ぎやすい。また、仕事の切り替えやリフレッシュのきっかけとしても活用しやすいだろう。さらに、脳の活性化からストレス軽減まで、科学的根拠に基づく多面的な効果が期待できる点も魅力だ。
デジタル社会において増大するさまざまなストレスに対して、このようなシンプルでありながら効果的なアプローチは、オフィスワーカーの生産性向上に大きく貢献する可能性を秘めている。
■須田万勢(すだ・ませい)先生
【写真】医師の須田万勢先生
諏訪中央病院 リウマチ・膠原病内科医長/一般社団法人総合医療チーム JIN代表理事
医師として勤務する傍ら、一般社団法人医療チーム JINを立ち上げ、古今東西の医療と最新のエビデンスを組み合わせながら、生活習慣でストレスをリセットする「養生」のコンセプトと手法を情報発信している。