2025.02.24
「美術展ナビ」の長期連載、<城、その「美しさ」の背景>でおなじみの歴史評論家・香原斗志さんの新著が「お城の値打ち」(新潮新書)です。
近年の「城ブーム」のおかげで、全国各地で名所・史跡として人気を集める城の数々。「100名城」が定着し、お城を紹介するテレビ番組も盛んに作られています。
城の歴史と未来を考え、日本の社会のあり様も問う
ところがそのブームの一方で、史実とはおよそ異なる姿がまかり通っている例が多いのも日本の城の実情です。さらに城郭の価値を無視した都市化や乱開発で、周辺の景観も見るに忍びない事例が少なくありません。そもそも、かつて数万あったという日本の城郭はなぜ激減してしまったのでしょうか。「現存天守」「復元天守」「復興天守」「模擬天守」の違いとは――文化財、史跡としての城の値打ちと、その歴史と未来を問うています。
香原斗志さんはこの中で「城について考えることは、日本の歴史の文化はもちろんのこと、過去から今日までの社会のあり方を見渡すことにもつながる。社会に潜む問題点さえ、城が鏡になってあぶり出されることもある。」と本書の狙いについて触れています。その通りの内容です。
名古屋城や江戸城の再建も考察
全体は5章構成で、第1章「なぜ多数の城が消えたのか」、第2章「生き残った城たち」、第3章「天守再建ブームの光と影」、第4章「平成、令和の復元事情」、第5章「日本の城の進むべき道」ーとなっています。明治維新以降、新政府の方針や激しい空襲などで大半の遺構が失われた経緯から、ごく少数の城が例外的に生き残った理由、戦後の再建ブームの中で史実無視や集客目当ての改変が相次いだこと、さらに近年の史料重視の精密な再建について、時代を追ってまとめています。最近、話題を集めている名古屋城や江戸城の再建についても、考察を加えています。
「残されたものを大切にする気持ちを」香原さん
「お城ファン」はもちろん、日本の近世や近代の歴史、都市計画に関心のある方など、広く読まれてほしい一冊です。「美術展ナビ」読者に向けたメッセージを伺うと、香原さんは「私たちがいま眺めることができる城は、程度の差こそあれ、かつての断片にすぎません。あまりにも多くが失われました。惜しいです。残念です。でも、惜しいと思うところから、残されたものを大切にする気持ちも、歴史的な景観が守られてほしいという気持ちが生まれるのだと思います。本書がそのための一助になることを願ってやみません」と話してくれました。(美術展ナビ編集班 岡部匡志)
【書誌情報】
書名:お城の値打ち(新潮新書)
著者:香原斗志
発行:2024年12月20日
頁数:224ページ
ISBN:978-4-10-611069-6
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香原斗志(かはら・とし):歴史評論家。早稲田大学教育学部社会科地理歴史専修卒業。主な執筆分野は、文化史全般、城郭史、歴史的景観、日欧交流、日欧文化比較など。近著に『教養としての日本の城』(平凡社新書)。ヨーロッパの歴史、音楽、美術、建築にも精通し、オペラを中心としたクラシック音楽の評論活動も行っている。欧州文化関係の著書に『イタリア・オペラを疑え!』(アルテスパブリッシング)等、近著に『魅惑のオペラ歌手50 歌声のカタログ』(同)がある。