日本映画製作者連盟の発表によると、2024年の総興行収入は前年比6.5%減の2069億8300万円、総動員数も同7.1%減の1億4444万1,000人となりました。2022年、2023年はコロナ禍からの順調な回復を見せ、興収、動員ともに前年比増で推移してきましたが、2024年は残念ながら伸び悩みました。今年、興収、動員の増加が望まれるなか、どのような施策が考えられるでしょうか。そこで今回、映画館ができることに焦点を当て、当社調査データから効果的な施策を考えてみます。
《目次》
「どのようなことが実現すれば映画館に行きたいか?」
1位は「見たい作品が上映される」、カテゴリー別では座席などハード面への反応が高い
国内の男女15歳~69歳を対象に「どのようなことが実現すれば映画館に行きたいか」を36項目にわたって調査したところ、1位は22.7%を集めた「見たい映画が上映される」となりました。そして、続く2位から5位はそれぞれ、「自宅の近くに映画館ができる」「長時間の鑑賞でも疲れにくい座席」「日時によって通常料金よりも安く観られるサービス」「仕切りなどでプライバシーが守られた座席」だということが分かりました。
以下は上記調査項目を映画館の施策別にカテゴリー分けしたものです。項目別では前述した「見たい映画が上映される」の高さが際立つ一方、カテゴリー別の傾向をみると、座席などを含む「建設・設備」への関心が高く、「価格」よりも全体的に高めとなっています。こうした要望は、映画館で映画を年に1本以上観る〈1本以上層〉と、映画館で映画を見ない〈0本層〉の間で違いはあるのでしょうか?
〈1本以上層〉〈0本層〉で反応に大きな違いはみられない
上記は「どのようなことが実現すれば映画館に行きたいか」の2024年における鑑賞実績別チャートです。項目別では、〈1本以上層〉〈0本層〉ともに1位は「見たい映画が上映される」となりました。次点も順位に入れ替わりこそあるものの、「長時間の鑑賞でも疲れにくい座席」「自宅の近くに映画館ができる」が入るなど、上位の傾向が似ています。また、カテゴリー別にみても大きな差がなく、〈1本以上層〉〈0本層〉ともに「建設・設備」に対する反応が高い傾向にあることが分かります。
映画館での鑑賞実績別で傾向に大きな差がないことが分かりました。では、〈1本以上層〉〈0本層〉の鑑賞頻度をあげるためにどのような施策が効果的なのでしょうか。項目別では「見たい映画が上映される」や「自宅の近くに映画館ができる」が鑑賞実績問わず上位にあがりましたが、作品供給量のコントロールや立地改善の取り組みは容易ではありません。そこで、カテゴリー別で高い傾向にあった「建設・設備」において、複数項目で上位に入った「座席」(赤字項目)に注目し、訴求が有効なターゲットを調べてみます。
「座席」訴求は特に女性に効果的
「座席」関連項目に関して、映画館での鑑賞実績別、男女別に違いをみてみました。〈1本以上層〉〈0本層〉ともに、女性の方がより強く「座席」の充実を求めていることが分かります。そのため、映画館の座席の改善、もしくは既にそれが実現している場合には、そのPR対象として、特に女性が有効であると考えられます。
女性は同伴者を伴う鑑賞傾向が高いため、マーケティング効果が期待できる
上記は〈1本以上層〉を対象に「映画館に行く際の同伴者で最も当てはまるケース」を調査したチャートです。「複数人で」映画館に行く人が男性は50%なのに対し、女性は65%と男性を大きく上回りました。このように女性へのPRの付帯効果として、同伴者を呼び込む効果も期待できます。
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項目別1位の「観たい映画が上映される」については、ハリウッドのストライキによる洋画大作の供給低下などからも分かるように、映画館側ではコントロールしづらい側面もあります。しかし、強い作品・人々が観たい作品が公開される際に、観客の来場、再来場が促進される取り組みやPRを映画館が行っていくこと、その施策の準備を進めておくことは、総動員数の回復に向けて重要です。その際の訴求要素として、来場促進が期待できる「座席」をはじめ、設備面での投資やPRを行うことで観客に付加価値を提供できると、単価を落とさずとも、動員を確保し、総興行収入を増やしていける可能性があります。そして、「座席」に関しては女性が特に重要視しており、また同伴者も期待できることが分かりました。
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