『パラサイト 半地下の家族』(19)でアカデミー賞を席巻したポン・ジュノ監督による最新作『ミッキー17』がいよいよ公開となり、大きな話題を呼んでいる。身勝手な権力者たちの過酷すぎる業務命令によって“使い捨てワーカー”となってしまうミッキー(ロバート・パティンソン)が逆襲を開始する姿を描く本作。爽快な逆襲劇から気づいたらあらゆる社会問題が浮き彫りとなるだけでなく、かねてよりスタジオジブリ作品からの影響を公言しているジュノ監督がジブリにオマージュを捧げた謎のモンスターが登場するなど、予想外の展開の連続で観るものをクギ付けにしているのだ。
あまりにも頑張り屋でいい人すぎるあまり、どんな任務も引き受けてしまうミッキーを「応援したくなる」という感想も見受けられ、MOVIE WALKER PRESSでは、様々なテレビ番組の企画でミッキーのように奮闘している人の代表として、お笑いコンビ「ガンバレルーヤ」のよしこ&まひるを直撃!頑張り屋さん目線からミッキーの魅力を語り合ってもらうと、「『もののけ姫』や『風の谷のナウシカ』と通じるものがありました!」とジブリファンとしての感想も炸裂。「お互いの存在のありがたみにも気づきましたし、自分自身を大切にしたくなった」と熱い感想があふれだした。ミッキーのような頑張り屋さん目線で「ガンバレルーヤ」の2人にインタビュー! / 撮影/河内彩
■「なにが起きるのかまったく予想ができませんでした!」(よしこ)
本作の主人公となるのは、人生失敗だらけのミッキー。彼はブラック企業のどん底で、ありとあらゆる方法で搾取され、死んでは生き返らされ続けていた。何度も死に続け、ついに17号となったミッキーの前にある日、手違いで自分のコピーである18号が現れたことで、事態は一変。2人のミッキーは、権力者たちへの逆襲を開始する。使い捨てワーカーVS強欲なブラック企業のトップ。戦いの火蓋が、切って落とされる。何度も死に続けるミッキーの前に、コピーである18号が現れた!2人のミッキーによる逆襲が始まる / [c] 2025 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.
――ミッキーの逆襲を描きながら、怒涛の展開へと突き進む本作。たったいま観終わったばかりのお2人ですが、映画をご覧になった率直な感想を教えてください。
よしこ「めちゃくちゃおもしろかったですね。最後までハラハラドキドキとして、常に『どうなっちゃうんだろう!』となにが起きるのかまったく予想ができませんでした。137分の上映時間でしたが、満足度が高いのに、映画が始まってから終わるまでが一瞬に感じるくらい!映画の前にカツ丼と茶碗蒸しとイカゲソの天ぷらを食べてお腹がいっぱいだったので、『寝ちゃったらどうしよう…』と不安だったんですが(笑)、そんな心配は必要ありませんでしたね。まーちゃん(まひる)、途中で目を覆ったりしていたよね」
まひる「ミッキーが何度も生き返るので、死んだりするシーンはやっぱりびっくりするような描写もあって。よっちゃん(よしこ)と同じタイミングで『うわあ!』と目を覆ったり、手を繋いだりしちゃいました。ポン・ジュノ監督の『パラサイト 半地下の家族』も観たことがありましたが、ハラハラの天才だと思います!今回も人間同士のやり取りにもハラハラしましたし、かと思いきや“クリーパー”という未確認生物まで大量に出てくるので驚きながら観ていたんですが、ミッキー17とミッキー18という2人がバディのようになって戦っていく姿を目の当たりにするにつれて、よっちゃんと私にも重なる部分があるなと思って。私たちもお互いがお互いを補いながらいろいろなことを乗り越えてきたので、次第に2人のミッキーを応援するような気持ちで映画を観ていました」【写真を見る】おそろいの衣装とお面で“ミッキー”になりきる!「ガンバレルーヤ」の幸せいっぱいな撮り下ろしショット! / 撮影/河内彩
17号と18号の奮闘に、自分たちコンビの絆を重ねたというガンバレルーヤ / 撮影/河内彩
――なるほど!純粋でいい人すぎる17号と、意志の強さを持つ18号。正反対に見える2人が共闘していく姿に、コンビとしての絆を重ねたのですね。
よしこ「そういう意味ならば、私は18号に“まーちゃん味”を感じました。18号は強くて、勇敢な決断をすることができる人。まーちゃんもとても勇敢なんです。これまでいろいろなロケをしてきましたが、そのなかでも私がもっとも過酷だなと感じるのが、“即席で作ったバンジーを飛ぶ”というもので。崖から飛び降りた時に、目標物を自動で追跡するドローンはついてこられるのか…という実験をしたんです」
――いろいろな実験に駆り出されるミッキーと重なるものがありますね。
よしこ「まさにミッキーです!そこで私が飛ぶのを怖がっていたら、まーちゃんだって高所恐怖症で足がガタガタ震えているのに『私が先に行くよ』と言ってくれて。ハーネスをつけてから、あっという間に飛んでくれたんです!しかも30秒くらいで(笑)。飛んだあとには、私を安心させるために『大丈夫だよ、よっちゃん』と声をかけてくれて…。まーちゃんは、そうやって誰かのために強くなれる人なんです」
まひる「私は、17号に“よっちゃん味”を感じました。よっちゃんって、世間的には強いイメージがあると思うんですが、実はすごく繊細でとてもやさしくて。17号はどれだけ人に裏切られても、嫌な目にあっても、相手を責めないし、悪口も言わない。まさによっちゃんです」
■「17号と18号を通して、“自分のなかにいろいろな自分がいる”ということがわかる」(まひる)
――強いコンビ愛を感じます。いつも過酷なロケにチャレンジしているお2人ですが、ハードすぎる業務命令に従うミッキーに共感する点はありましたか?ミッキーが就いた仕事は、過酷な任務で命を落としては何度も生き返る“死にゲー”! / [c] 2025 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.
まひる「共感しました。17号はやさしくて、いい人で、どんな無茶な任務も引き受けてしまいます。みんなにやさしくするあまり、自分自身をすり減らして搾取されていくような感じも、すごくよっちゃんに似ているなと思って。ミッキーは『それが自分の人生だ』とどんな任務も受け入れてしまっていますが、それって悲しいことでもありつつ、彼のいい部分でもあるので、難しいですよね」
よしこ「たしかに。17号っていい人すぎて、周りからどうでもいい扱いをされてしまうのかも…」
――お2人にとって、過酷なロケに立ち向かう原動力となるのはどのようなものでしょうか。過酷なロケに立ち向かううえでは、お互いの存在が欠かせないという / 撮影/河内彩
よしこ「過酷な命令を受けたミッキーは何度も死んで、何度も生き返りますが、私たちの場合、スタジオやテレビを観ている方々が笑ってくれると生き返るというか(笑)。大変だったけれど、やってよかったなと思うんです」
まひる「次にまた過酷なロケがやってきても、『誰かが笑ってくれるはずだ、喜んでくれるはずだ』と思うと頑張れるし、達成感も味わえます。ただミッキーの場合は、その先にあるのが“死”なので…。さすがにミッキーのようなチャレンジはできません(笑)!」
よしこ「あと大きな原動力と言えるのが、まーちゃんがいるからですね。まーちゃんがいなければ、すべて無理だなと思います。バディとなる17号と18号を見ていると、改めてまーちゃんのありがたみを感じました」
――ミッキーを演じるロバート・パティンソンの演技で印象的だったことがあれば教えてください。
まひる「柔らかな表情の17号と、凛々しい18号で、顔つきが全然違う!いまはどちらが話しているのかがすぐにわかるくらい、演じ分けがすごかったです。私は『ハリー・ポッター』シリーズが大好きなので、ロバート・パティンソンさんと言うとやっぱり、セドリック・ディゴリーを思い出します。セドリックも本当にステキで、やさしさと勇敢な部分のどちらも備わったキャラクターでした。セドリック役として培った経験が、今回に活かされているんですかね!セドリックはヴォルデモートと命を張って戦っていましたが、ミッキーの戦う姿もカッコよくて…。よっちゃんは、どっちのミッキーが好き?」
正反対の17号、18号を演じ分けるロバート・パティンソンの名演に注目だ / [c] 2025 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.
よしこ「17号と18号!?うわ、難しいー!でもやっぱり、18号に憧れるかな。強くて勇敢なだけではなく、17号に対してやさしさを示す時もあって。そう考えてみると、17号と18号って正反対のように見えて、誰にでもどちらの面もあるなと感じるようなキャラクターですよね。私にも18号のような部分があるし、まーちゃんにも17号のような部分がありますから」
まひる「たしかに…。17号は、きちんと目を通さずに、ブラック企業の書類に簡単にサインをしてしまって。私もそういうところがあるので気をつけたいです。18号は、成り行き任せになってしまっている17号に向かって『なぜ言い返さないんだ!なぜ黙っているんだ!』と怒りますよね。17号と18号を通して“自分のなかにいろいろな自分がいる”ということが目に見えるようで、すごくおもしろかったです」
――理不尽なことを受け入れてしまう自分もいれば、怒りたい自分もいるものですよね。17号が、唯一無二の存在だと思える女性ナーシャ(ナオミ・アッキー)や18号との出会いを通して、少しずつ変化していく展開もとても興味深かったです。
ナーシャと17号の育む愛も胸を打つ。ガンバレルーヤも「いろいろな愛の形が見えた」と感激! / [c] 2025 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.
よしこ「ナーシャもとても愛情深い人でしたね。ミッキーという愛する人のためなら、たとえ自分が危機に陥ったとしても、権力者にも立ち向かっていける女性。カッコよかったです!」
まひる「愛の力って偉大!この映画のテーマは、ラブ&ピースだなと思いました」
■「権力者に『お前ら、恥ずかしいと思え!』と説教したい」「ジブリファンに刺さるポイントがたくさん!」(まひる)
――宇宙船で未開の地に辿り着いたミッキーたちは、“クリーパー”という謎のモンスターと遭遇します。クリーパーはクロワッサンをモチーフにしながら、『となりのトトロ』のネコバスや『風の谷のナウシカ』の王蟲など、ポン・ジュノ監督が敬愛するジブリ作品からインスピレーションを受けているそうです。クリーパーには、どのような印象を持ちましたか?
よしこ「ものすごくかわいかったです!そして“ママ・クリーパー”は、目の表情がすばらしかったですね。象の目のようで、とてもやさしい目をしていました。あとジョークを飛ばしてしまうようなところもあって、お茶目でおもしろいですよね」
まひる「一家庭に1クリーパーがいてくれたらうれしい!もし家にいてくれたら、抱いて一緒に寝たいです。寝坊したら、足を引っ張って仕事場まで連れて行ってくれそう!」
よしこ「クリーパーには、引きずる力があるからね。連れて行ってくれるよ(笑)!」
――ジブリ作品の大ファンであるまひるさんですが、本作をジブリ好きが観たらテンションが上がるポイントはありましたか。
まひる「たくさんありました!『王蟲にも見えるな』と思いましたし、『人間とクリーパーは共存できるのか?』という問いかけや、壮大な愛が真ん中にあるという内容も、『もののけ姫』や『風の谷のナウシカ』と通じるものがあるなと。見た目から『怖い生き物なのではないか?』と誤解されてしまうかもしれませんが、もともとその星に住んでいたのはクリーパーであって、クリーパーにとっては人間が未確認生物。本当はとてもやさしくて、人間を助けたり、対話することで平和的に交渉をしようとしたりする、愛の塊のような存在です。純粋無垢な生き物で、それに比べると人間はなんて愚かなんだと…。クリーパーが愛にあふれているので、欲望だらけの権力者たちの醜さ、汚さ、愚かさが浮き彫りになって、『お前ら、恥ずかしいと思え!』と説教したくなりました。クリーパーから教えられることがたくさんありましたし、人間目線、クリーパー目線と、いろいろな角度で観るとすごくおもしろいなと思います」身勝手で手強そうな権力者コンビを、マーク・ラファロとトニ・コレットが演じる / [c] 2025 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.
――17号とクリーパーのやり取りも大きな見どころですね。
まひる「あれはやっぱり、心のやさしい17号だからこそできたことですよね。まるでナウシカのようでした。そしてその想いを18号も理解している。あの瞬間は、それぞれがいろいろな形で愛を示していることがわかってすごく感動的でした」
よしこ「クリーパーをどうしてあのようなデザインにしたのか、すごく気になります。口の中までリアルで最初は『怖い!』と思ってしまうんですが、だんだん尻尾までかわいく見えてきて。それに違う星に行ってまで人間が欲望をむきだしにするという展開は、テクノロジーの発達した未来予想図のようでもありましたよね。現実離れしている話かと思いきや、ゆくゆくはこうなるんじゃないか…と感じることがたくさんありました」
■「自分にもミッキーみたいにいろいろな自分がいるんだなって、愛おしくなりました」(よしこ)
――意図せずにヒーローになってしまうミッキーを通して、格差や労働搾取といった社会問題と共に、「どう生きるか?」という人生の本質まで浮き彫りになるような映画です。お2人は観終わった後にどのような感覚になりましたか。ロバート・パティンソンが逆襲の男の生き様を体現! / [c] 2025 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.
よしこ「いろいろな感覚を刺激されて、観終わってまず率直に『おもしろい!』と思いました。共感できる部分もあるし、前向きにもなれるし、この世に対して思うことが出てくる人もいるかもしれません。私は『もっと自己主張をしてもいいのかな』『もっと強くなりたいな』と思いましたし、『自分の愛を貫きたいな』とも思いました。大きな愛を感じたい人に、ぜひオススメしたいです」
まひる「ミッキーは何回もコピーをされて生き返りますが、すべて同じように見えても、それぞれ違うミッキーがいました。例えば勇気を持って踏みだそうとしている自分、躊躇している自分など、自分のなかにいろいろな自分がいて、それが戦ったり、せめぎ合ったり、助け合いながら日々を乗り越えているんだなと思うと、自分自身が愛おしくなって。ミッキーは何度も生き返ることができますが、本来の人生は一度きり。だからこそ、いろいろな自分を愛してあげたいなと思いました」
よしこ「本当だね。17号の部分や18号の部分など自分のいろいろな側面を集めながら、これからもあらゆることに挑戦できたらいいなと思います。実際にあるんですよ。ものすごくスベってしまった日の夜など、お風呂で頭を洗っている時に、一人で『なんであんなことしたんだ!』『お前がそうしろって言ったんじゃないか!』と意見を戦わせるようにしゃべってしまうことが(笑)」
まひる「『クソが!』と叫ぶよっちゃんは、18号だね」
よしこ「そう!でもそういうことって、誰にでもあると思います。自分への愛にも気付かされるなんて、まさかこんなお話だと思いませんでした。これ、すごい映画ですね!」
スチール撮影で、どっちが17号になるのか迷ってしまう2人 / 撮影/河内彩
――お2人のコンビ愛の強さにも、胸を打たれました。
よしこ「まーちゃんがすごいんです。一緒にいればいるほど感じますが、自分をないがしろにしてまで人に愛を注げる人で、私はまーちゃんに愛を教えてもらいました」
まひる「そっくりそのままお返しします(笑)。17号、18号のように運命共同体です」
よしこ「私たち、前世は双子だって言われたことがあるんです!」
まひる「本当にそっくりな双子で、どこに行っても比べられる人生だったそうです。それが嫌で『次は別々の場所で生まれようね、でも絶対に出会おうね』と言って死んだらしくて。覚えている(笑)?」
よしこ「覚えてないよ(笑)!でもこれからもずっと一緒。17号、18号のように補い合っていきたいです」
取材・文/成田おり枝
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