阪神・淡路大震災から30年の節目にNHKが製作する土曜ドラマ『地震のあとで』
原作・村上春樹×脚本・大江崇允と聞けば思い出されるのは濱口竜介監督の『ドライブ・マイ・カー』
短編小説集『女のいない男たち』の中の何本かを組み合わせて再構築した脚本になっていました。
ドライブ・マイ・カー:村上春樹の同名小説を濱口竜介監督が実写映画化。今年のカンヌで脚本賞など4冠を達成。原作の「演じる」というモチーフを大幅に増強して劇中の戯曲が超独特かつ多層的な位置付けに。車の見せ方も多種多様で面白い。あと海辺の公園のシーンの撮影むちゃくちゃ良かった。
— 林昌弘,Masahiro Hayashi (@masahiro884) August 21, 2021
カンヌ4冠なのでさぞ混雑しているだろうと勇んで公開翌日に行ったらTOHOシネマズ日比谷の12番シアター(東京宝塚ビル地下の大きな箱)がガラガラだった寂しい思い出w
さて、そんな『地震のあとで』第1話の原作は『UFOが釧路に降りる』
実はこの短編は数年前に海外でアニメ映画化されている。
邦題は『めくらやなぎと眠る女』
評価も高く、いくつかの受賞歴も。
ちなみに『めくらやなぎと眠る女』はまた別の村上春樹の短編小説のタイトル
本作は音楽家でアニメーション作家のピエール・フォルデス監督が、村上春樹の6つの短編「かえるくん、東京を救う」、「バースデイ・ガール」、「かいつぶり」、「ねじまき鳥と火曜日の女たち」、「UFOが釧路に降りる」、「めくらやなぎと、眠る女」を再構築した、村上春樹原作初のアニメ映画。
http://www.eurospace.co.jp/BWSW/
奇しくも『ドライブ・マイ・カー』と似た脚色手法が採られている。
これら過去作に比べると『地震のあとで』第1話のストーリーは概ね原作通り。
鮭の皮や鈴のエピソードはカットされているけど、確かにあれは文章で読むから映えるって判断なのかな?
一方で原作には出てこない妻の名前がドラマ版では「未名」なのは少々あざといw
未来の未に名前の名って書きます。
「未だ名前が無い」って意味で付けられたそうです。
NHK土曜ドラマ『地震のあとで』第1話
村上春樹は登場人物の名前を明らかにするタイミングに強い特徴を持つ作家なのである。
ストーリーは原作準拠な一方で演出面はどことなく妖しくて不穏な味わい。
撮影(映像)と劇伴が大きく寄与している。
撮影監督を務めたのは渡邉寿岳
近作は映画『熱のあとに』やドラマ『ガンニバル』シーズン2
『熱のあとに』とは橋本愛・鳴海唯・木竜麻生といったキャストの共通項もあって近い空気を感じた。
ちなみにキャストでいえば昨年見事な復活を果たした唐田えりかは今回も素晴らしかった。
『極悪女王』よりは『ナミビアの砂漠』の方の唐田えりか。
一方でさすがに『ガンニバル』とはテイストは大きく異なるかな。
脚本が大江崇允という共通点もあるけど「ガンニバルの制作陣がNHKで新作!」と言うのはさすがに憚られるぐらいには違う。
(あくまで「違う」だけでどっちが良い・悪いではないです。念のため)
映像面で印象に残っているのは
未名(橋本愛)と小村(岡田将生)の一方がピンぼけの構図(2人の気持ちのピントが文字通りズレていることを映像的に表現している)
地下鉄の撮り方
オーディオ機器店やラブホテルでの鏡を使った虚像のモチーフ(劇中のテレビ画面に映し出される映像のモチーフとも通じている)
風景を映した引きの画
ラスト付近のシマオ(唐田えりか)の顔が逆光で見えないショット
廊下が赤い光に包まれるエンドロール
やはり白眉はUFOの話(これは原作にもある)の後で車窓から平原?湿原?に未名を見るドラマ版オリジナルのシーン。
あそこは大友良英の劇伴も入り方から最高。
吉田大八監督の『美しい星』の橋本愛をちょっと思い出したり。
こちらは原作・三島由紀夫
そもそも村上春樹の原作がそういうテイストなわけだが、NHKが阪神・淡路大震災から30年の節目に作ったドラマという企画からの予想を良い意味で裏切ってくれる怪作。
多くの謎が残る結末だが、凡百の考察ドラマとは一線を画している。
もし「震災が題材ということは辛い or 真面目で堅い作品なのかな」と敬遠してる人は観たら印象変わるかも。
来週の第2話は『アイロンのある風景』
楽しみ。
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