30年ぶりに、日比谷の大スクリーンで『Love Letter』を観た。
1日1回だけの限定上映。会場には還暦前後の同世代もいれば、10代・20代と思しき若い観客の姿もあった。初めてこの映画に触れる若者たちは、どんなふうにこの物語を受け取ったのだろう。上映後、余韻に打たれたまま立ち上がれずにいる人たちが座席に散見された。僕も同じ思いである。
映像も音楽も美しかった。そして何より、中山美穂と、若き日を演じた酒井美紀の存在感は圧倒的で、全く古びることなく、新作のように瑞々しかった。
本作は「伝えられない思い」についての映画だ。
言葉にできずら伝えられない思い、言葉になったときにはすでに相手がいない思い、そして時を越えて誰かの思いが届く奇跡のような瞬間。完結しないまま残るコミュニケーションの形が重層的に描かれる。
そして、今回のリマスター上映は、観る側にとってもまた一つの“手紙”だった。若き日に本作を観た自分と、今の自分との対話。当時そばにいたけれど、今はいない人たちへの、思いが込み上げてくるが、あのラストシーンの中山美穂の名演のように、「あなたはそこにいる」と信じて呼びかけるしかない。
そして、その想いを込めた名演をした中山美穂も、もういない。時間はあっという間に流れ、そこにいるのが当たり前だった人が、ある日ふいにいなくなる。それは自分自身も例外ではない。
観終えて、言葉にするのが惜しいと思える名作だった。
そして何より、久しぶりに、自分の中にまだ“心の柔らかい部分”が残っていたことに気づかせてもらった。
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