1995年3月13日に英国でリリースされたレディオヘッドのセカンドアルバム『The Bends』。発表から30周年を記念し、シングルB面曲を集めたプレイリストが公開されたり、トム・ヨークのアコースティックライブ映像がアップされたり、本作を振り返る動きが多い。今回はそんな名盤『The Bends』について、音楽ライター小林祥晴が音楽性・歌詞・後世への影響など多角的に論じた。 *Mikiki編集部

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レディオヘッド覚醒の萌芽が感じられる作品

レディオヘッドのキャリアにおいて、〈オーセンティックなギターロック〉という枠組みを大きく逸脱していった3作目『OK Computer』以降こそが重要だという見方がある。様々な歴史的名盤ランキングを見ても、『OK Computer』やその後にリリースされた『Kid A』、『In Rainbows』などが上位に挙げられることが多い。

そのため初期2作、特にセカンドアルバムの『The Bends』については、以下のような捉え方が一般的ではないだろうか。このアルバムには息を呑むほど美しくメロディアスな名曲が詰まっている。愛すべき名盤であることは間違いない。しかしまだ覚醒前の作品であり、レディオヘッドの本領が存分に発揮されているとは言いがたい――。

無論その見方は間違っていない。だが『The Bends』30周年を機に改めて振り返ってみると、そこにはその後のレディオヘッドへと繋がる幾つもの道筋を見つけることができる。つまりこのアルバムは、レディオヘッド覚醒の萌芽が確かに感じられる作品でもあるということだ。

 

〈“Creep”の一発屋〉からの生まれ変わり

まずはリリース当時の状況を押さえておきたい。いまでは信じられないが、このときのレディオヘッドは“Creep”が大ヒットしただけの一発屋という扱いだった。次のヒットを生み出せなければバンドは終わり、しかもファンやレコード会社は“Creep”みたいな曲を再生産することを求めている。このような極度にプレッシャーがかかる状況下で難産の末に生み落とされたのが『The Bends』だった。

改めて言うまでもなく、ここで彼らが選んだのは“Creep”の再生産を断固として拒否し、音楽性を大きく拡張させるという道だ。ただ意外なことに、リリース当時この方向性への評価は割れていた。イギリスでは一気に壮大さを増したサウンドが絶賛を浴びた一方で、“Creep”大ヒットの発火点となったアメリカでは〈ヒット曲が見当たらない〉などと渋い反応もされている。

セールスの結果もメディアによる評価と同様で、イギリスでは最高4位を記録したものの、アメリカでは88位止まり。まだグランジの余波が続いていたアメリカでは、レディオヘッドが『The Bends』で打ち出した新機軸はすぐには受け入れがたかったのだろう。裏返せば、『The Bends』でのレディオヘッドは、グランジ的な“Creep”を求め続ける受け手が戸惑うくらい見違える姿へと生まれ変わっていたのだ。

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