新年を迎え、今後注目したい分野について改めて考える良い機会となりました。Coral CapitalはジェネラリストのVCとして、特定のテーマに縛られることなく、SaaSから核融合技術に至るまで幅広い分野に投資してきました。また、未来を描き、それを実現するのは私たちVCではなく、支援する起業家たちだと考えています。とはいえ、有望な創業チームと出会ったときに見逃さないよう、新たな機会がどの分野から生まれるのかについて常に考え、学び続ける姿勢を大切にしています。

そこで、私が最近特に注目している10の分野についてご紹介したいと思います。

インバウンド観光:2030年までに訪日客6,000万人を目指す

2024年の1月から11月までに日本を訪れた外国人観光客の総数は約3,340万人に達し、過去最高記録を更新しました。政府は2030年までにこの数を倍増させることを目標としています。

日本に住む人にとって、お気に入りの場所がオーバーツーリズムで混雑してしまうのは残念で心配なことかもしれませんが、この目標は決して非現実的なものではありません。例えば、2023年にはフランスには約1億人、イタリアには約6,000万人、そしてトルコにも約4,900万人の外国人観光客が訪れました。アジアでも各国が豊かになるにつれて、欧米のように旅行を楽しむ人が増え、特に身近な地域への旅行が増えるのは自然なことです。実際、すでに日本を訪れる観光客の70%以上がアジアから来ているのです。

この追い風を活かし、観光業のさらなる成長を後押しするためのいくつかの投資をCoralではすでに行っています。たとえば、Nutmegは旅行会社向けに、ウェブサイトの運営や予約、決済などを総合的に管理できるオールインワンのSaaSソリューションを提供しています。実店舗を持つ事業者向けにサービスを提供するmovは、主要プラットフォームや多言語にわたって店舗情報や口コミの一元管理・モニタリングを可能にします。Pie Systemsは、買い物客と販売者の双方にとってシームレスな免税ショッピングを実現するソリューションを提供しています。今後も、この観光業の成長の波に乗り、独創的なアイデアで価値あるビジネスを創出するスタートアップにお会いしたいと考えています。

日本の防衛費の増加:GDPの1%から2%へ

今や「防衛テック」はVC界で流行りのバズワードとなっているため、このテーマに触れるのを正直なところためらいました。しかし、日本の現状を考えると、このテーマが非常に重要であることは明らかです。日本は地理的に台湾に近く、国内には120を超える米軍基地があり、5万3000人以上の米軍人が駐留しています。実際、日本は世界で最も多くの米軍が駐留している国なのです。

日本政府は、2027年までに防衛予算をGDPの2%に引き上げる計画を打ち出しています。これは、従来の1%の上限からの大きな転換を意味します。2025年度の防衛予算は、前年度比9.4%増の過去最高額、約8兆7000億円(約551億ドル)で閣議決定されました。これと並行して、政府はスタートアップ企業の積極的な参画も強く求めています。具体的には、先端技術を防衛装備の開発に活用するため、防衛省と経済産業省が連携して「デュアルユース・スタートアップエコシステム」の構築を目指しています。また、その一環として新たに「スタートアップ技術提案評価方式」が導入され、防衛省および自衛隊が政策課題を提示し、スタートアップ企業から直接技術提案を受けられる仕組みが整備されました。この制度により、提案要件が緩和され、場合によっては従来の入札プロセスを省略することも可能となります。私たちも防衛省の担当者と直接話をする機会があり、彼らがスタートアップ企業との連携を深めることに非常に真剣に取り組んでいることを確認しました。

AIエージェントとコパイロットが、 人間とソフトウェアの両方を代替する

AIエージェントは、特定の目標を達成するために設計された自律的なソフトウェアシステムで、最小限の人間の介入で自ら環境を認識し、意思決定を行い、タスクを遂行できます。言い換えれば、人間をそのまま(あるいはそれ以上の能力で)AI化したようなものです。一方で、コパイロットは人間を完全に置き換えるのではなく、その能力を拡張し、タスクの遂行をサポートするように設計されています。

AIエージェントやコパイロットは、どちらもVC界で流行のバズワードです。しかし、以前にも書いたように、これらは日本にとって特に重要な、より大きなテーマの一部でもあります。日本では近年、生産性向上や人口減少への対策として、SaaSや自動化の導入が急速に進んでいます。その中でAI、特にAIエージェントは、この流れをさらに加速させる鍵となるでしょう。確かに、これらはトレンドの投資テーマではありますが、日本にとってもはや無視できない重要な分野でもあるのです。このテーマについては昨年の記事でも取り上げましたが、今後もこの分野で独自の挑戦をする起業家と積極的にお会いしたいと考えています。

より長く生き、より長く働き、健康寿命も伸ばす

高齢化社会について語る際、日本は特に注目を集めがちです。確かに、日本の合計特殊出生率は1.2で、現在の人口を増やすどころか維持することもできない状況にあります。しかし、これは日本だけの問題ではありません。中国や韓国、台湾、シンガポールの出生率は日本よりもさらに低く、EU全体の平均も約1.4で減少傾向にあります。出生率の減少は1960年代以降、ほぼ世界的な現象となっているのです。

出生率の改善はもちろん重要な課題です。しかし、これまで政府がどれだけ多くの施策を講じても、その効果は限定的でした。このように高齢化対策が進展しない背景には、「人口を増やすこと」にばかり注目し、「今いる人々の寿命や生産性を延ばすこと」に十分取り組んでこなかったことが、一因としてあるのではないかと私は考えています。一定の年齢で退職するという前提についても、見直す時期に来ているのかもしれません。人々がより長く、健康で生産的に生きられるよう、健康寿命を延ばす取り組みにもっと力を注ぐべきではないでしょうか。

特に日本は、「健康と長寿」においてさまざまな面で世界トップクラスです。日本は世界で最も長寿の国で、女性の平均寿命は86.8歳、男性は80.5歳に達します。さらに、高齢期における健康維持においても優れており、65歳時点での健康余命は16.7年と、世界最高水準を誇ります。

また、高齢化社会に対応するため、日本では「シルバーマーケット」向けのさまざまな技術やソリューションが開発されています。これらを世界中に輸出することも有望なビジネスチャンスの1つですが、私が注目しているのはそれだけではありません。高齢化への対応は、もっと理想的で夢のある未来につながる可能性を秘めていると考えています。具体的には、予防医療や遺伝子治療による老化の抑制や克服です。医療のデジタル化やAIの導入が進む今、生物学的年齢を数十年若返らせる技術の実現がますます現実味を帯びています。また、日本は長寿や幹細胞研究の分野で世界をリードしており、ノーベル賞を受賞した山中伸弥教授にちなんで名付けられた「山中因子」が特に注目されています。こうした分野における日本の強みを活用し、100歳が「若々しく元気な年齢」となる未来を実現しようとする起業家にぜひお会いしたいと考えています。

日韓の市場連携と協力の強化

昨年、日本と韓国はより協力を深めるべきだという内容の記事を書きました。歴史的な緊張関係があるものの、近年の日韓関係には改善の兆しが見られ、特に若い世代でその傾向が顕著です。最近の調査でも、若者の間で互いの国に対する好感度が高まっていることが確認されています。その背景には、観光やエンターテイメント、グルメなどを通じた活発な文化交流があると考えられます。そして、グローバル展開を目指す日韓のスタートアップ企業にとって、この日韓市場は米国やインド、中国といった遠方の市場に比べ、参入のハードルが低いという利点があります。時差がほとんどなく、言語同士に近縁性があり、文化的な「常識」においても共通点が多いことから、円滑なコミュニケーションや迅速な成果が期待できます。また、両国を合わせた市場は人口1億7500万人以上、GDPは約6兆ドルに達し、「日本・韓国経済圏」として米国、中国に次ぐ世界第3位の経済規模となり得ます。両国に進出することで、スタートアップ企業はこの巨大な経済圏を基盤に成長を加速させる機会を得られるでしょう。

このような背景から、これからも日本と韓国の市場をまたいで活躍するスタートアップに注目していきたいと考えています。

これらの分野に関連するプロジェクトに取り組んでいる起業家の方がいらっしゃいましたら、ぜひご連絡ください。もちろん、私たちはジェネラリストですので、これらに限らず幅広い分野の起業家の皆さまとの出会いを楽しみにしております。こちらからお気軽にご連絡ください。

残りの5つのテーマについては、今後数週間のうちに記事でご紹介する予定ですので、ぜひご期待ください。

Founding Partner & CEO @ Coral Capital

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