パナソニックは事業再編を検討している。特に収益性の低いキッチン家電とテレビの行く末が不透明だ。撮影:小林優多郎
パナソニックが「テレビ事業売却の可能性」に揺れている。
パナソニック ホールディングス(以下パナソニックHD)社長兼グループCEOの楠見雄規氏が後述する2月4日開催の決算会見の中で、「売却する覚悟はあるが、売却方針を決めたわけではない」と発言したからだ。
しかし同時に「現状、事業を買ってくれる企業はないと考えている」と、非常にシビアな見方も示す。
家電メーカーのテレビ事業を俯瞰し、パナソニックの現状を考えてみたい。
パナソニック Cの生成AI導入から1年、見えてきた企業利用の成果と課題…「年間18万時間削減」「専門分野の使い方」とは | Business Insider Japan
思い入れある事業でも「決断」が必要なタイミング
パナソニックHDは、2月4日に開催したグループ経営改革に関する説明会をオンライン開催し、現在7つある事業会社を6つのグループに再編することを発表した。
その過程で「パナソニック株式会社」を2025年度中に解散する方針である。
パナソニックHDは、7つのグループを6つに再編、パナソニック株式会社(図中ではPC)を発展解散すると発表。出典:パナソニック ホールディングス
「解散」というと衝撃的に聞こえるが、このこと自体は事業再編であり、問題ではない。その過程で家電事業が大きく変わる、という点にこそ注目すべきだ。
パナソニック株式会社は、家事家電などを中心とした「白物家電」を扱う事業体だ。テレビなどAV系を中心とした「黒物家電」を扱う事業体としては別に「パナソニック エンターテインメント&コミュニケーション社」がある。
パナソニックHDとしては、この2社の中で収益性が低い「課題事業」として、キッチンアプライアンス(調理家電)とテレビを挙げている。
事業の中でも収益性の低い事業として、キッチンアプライアンスとテレビが名指しされた。出典:パナソニック ホールディングス
実のところ、より厳しいのはエンターテインメント&コミュニケーション社、すなわちAV家電事業だ。
パナソニックといえば「テレビ」というイメージもあるかもしれないが、現在全グループ内での、エンターテインメント&コミュニケーション社の占める割合は3%程度にまで減っている。
そのため、以前より「パナソニックはテレビ事業を手放すのでは」との観測がある。
2月4日の説明会見で、楠見社長は「売却するかどうかについては、現時点でコメントできる状態にはなく、決定はしていない。(再建には)売却以外もある」と明言を避けた。
一方で「今、(パナソニックの)テレビ事業を売却しても、受ける企業はまずないと考えている」とさらに厳しい見方を示す。
パナソニック ホールディングス代表取締役社長執行役員グループCEOの楠見雄規氏。出典:パナソニック ホールディングス
楠見社長はテレビ事業に思い入れが無いのか、というとそんなことはない。
楠見社長は研究開発部門からキャリアをスタートし、テレビやレコーダー事業に関わり続けてきた。
2000年代前半はブルーレイ・ディスクの企画開発をリードし、2013年にはテレビ事業部長になり、その後も2018年までは、テレビ製品事業担当役員を担当している。
楠見氏のキャリアはAV機器とともにあり、思い入れも大きい。
「(自身が)テレビ事業をやってきたため、センチメンタルな部分はなきにしもあらず」と楠見社長は言う。
だが同時に「当社を高収益事業の塊にして行くには、事業のやり方を大きく見直していかねばならない」と言い切る。
パナソニックグループのトップとして、歴史も自身の思い入れもある事業に大なたをふるわねばならない、厳しい状況にあることを改めて表明した形だ。
「世界で数を売る」中国・韓国勢に対する不利CES 2025のLGブース。毎年、LGはディスプレイを使った派手な展示を公開している。撮影:小林優多郎
現在、世界のテレビ市場では、サムスン・LGの韓国勢と、ハイセンス・TCLなどの中国勢が主軸となっている。理由は「ディスプレイパネルの大量調達を軸とした競争力維持が重要」だからだ。
テレビはコストの大半をディスプレイパネルが占める。そのため、ディスプレイパネルを大量に調達した企業ほど有利になる。
そこでは、自社グループ内でのディスプレイパネル製造部門が価値を持つ場合もある。サムスンやLGはその戦略だ。
パナソニックの場合、2013年にはプラズマディスプレイ事業から、2019年には液晶ディスプレイ事業から撤退済み。現在はテレビのディスプレイパネルを外部から調達している。
とはいうものの、「外部調達ではテレビで収益を上げられない」というわけではないし、高画質にならないというわけでもない。
例えば、中国のハイセンスは高付加価値テレビで世界シェア2位のテレビメーカーだが、ディスプレイパネルは外部調達だ。また、東芝からの買収によってハイセンス傘下になった「TVS REGZA社」も、日本でのテレビシェアでトップにいる。
TVS REGZA取締役副社長の石橋泰博氏は、「今のテレビには幅広いバリエーションが必要」と説く。
「数量が小さいと種別を増やすことが難しい。我々がバリエーションを増やせるのはハイセンスあってのことで、コストがミニマム化できるから幅を広げられる」(石橋氏)という状況なのだ。
パナソニックは一時、全世界へテレビを売ることを諦めていた。2015年には北米市場からの撤退を表明、日本国内市場に集中することとなった。同時に、高画質製品を中心とした高付加価値製品への注力も行っている。
だがその結果として、大量調達は難しくなった。そのことはコストの面でもバリエーション戦略にでも不利に働く。
「ビッグテックとの提携」を選ぶ背水の陣パナソニックのFire OS搭載ビエラ(2024年モデル)。撮影:小林優多郎
結局パナソニックは2024年に北米市場へも再参入している。
同年パナソニックは、テレビ用のOSを、ウェブブラウザーであるFirefox由来のものから、アマゾンとの協業による「Fire OS」に切り換えている。
パナソニック側から見たFire OS採用の理由は3つある。
1つはOS開発効率とコストの低減。2つ目はレコメンドを含めた機能強化。そして3つ目が欧米市場でのプレゼンス拡大である。
欧米では「Amazon Fire TV」の知名度は、正直現在のパナソニックより上だ。パナソニックとしては自社ブランドだけで戦うよりも、アマゾンの知名度を活かす戦略を採った。
2015年、パナソニックがテレビ向けにFirefox由来のOSを選択した理由は、「ビックテックに主導権を握られたくない」という判断があった。
しかし、現在はそこを曲げてでも「収益性とプレゼンスの改善」を目指しているわけだ。
次のページ>>
国内メーカーの聖域なき改革。「画質だけでは勝負できない」時代
WACOCA: People, Life, Style.