なぜ引き上げ?「生きるか死ぬか」がん患者取材でみえた『高額療養費』の必要性【報道ステーション】(2025年2月6日)
高額な治療を受けた場合に、患者の自己負担が重くならないよう医療費に上限を設けた『高額療養費制度』。政府は、その上限額を段階的に引き上げる方針を固めました。
千葉県に住む濱島明美さん(51)。29歳のときに乳がんと診断され、一度は良くなりましたが、6年前に再発しました。現在は『ステージ4』。内臓や骨への転移も見つかり、3週に1度通院して治療を受けています。
濱島明美さん
「薬代、医療用麻薬だった、痛み止めだったり、フェスゴ(がん細胞の増殖抑制)注射を受けているので、大体10万円近い金額です。それが高額療養費制度で4万4000円を毎月支払っています」
この自己負担額が、いま、大きく引き上げられようとしています。
濱島明美さん
「『えっ』と思いました。いまでも切り詰めるというか、その分を確保しなきゃと働いているのに(自己負担が)上がると、いま、3週間に1度行っているけど、2カ月に1度とか3カ月に1回とか。治療の回数を減らす、ペースを減らそうかなと思いました。『あなた本当に庶民の暮らしをわかってるんですか』と言いたいです」
濱島さんの場合、将来的に毎月の負担額が6万円以上になる可能性があります。
濱島明美さん
「ほぼ家賃と変わらない額が、毎月、医療費。がんだけでかかるとなると、やっていけないと思います。3週間に1度、薬を入れることで、がん細胞がおとなしくなっている。押さえつけられていると思うので、2~3カ月空けることで、がん細胞がまた増えてきて、悪さをするっていのか、いろんな所に飛んだり、もっと悪いことが起こる可能性はあります。本当に生きるか死ぬかの問題だと思います」
なぜ、いま、負担額が引き上げられようとしているのでしょうか。
大きな要因が、2023年12月、閣議決定された『こども未来戦略』です。
当時の岸田政権は、少子化対策などに投じる費用3.6兆円のうち、1.1兆円を、社会保障費を減らすことで賄うことにました。そのなかで、具体的な削減対象として目を付けたのが、『高額療養費制度』だったのです。
医師らで作る団体は、強く反発しています。
全国保険医団体連合会 本並省吾氏
「未来のために、子どもたちのために、国民全体で拠出しようという考えではなく、まさに、いま苦しんでいる患者からお金を巻きあげる。負担をしたり、治療中断を招いて、それで得た財源で子育て支援に使う。本当におかしいと思う。白紙撤回を、引き続き、求めていきたい」
現在の制度は、年収に応じて、負担の上限額が5段階に分けて定められています。それを細分化したうえで、すべての人の負担を引き上げようというのが、政府の考えです。
肺腺がん患者(50)
「当事者の生の声も聞かずに、そして深い審議がないまま、制度を決めていくことには反対。限度額引き上げは、病気を抱えながら、子育てする親たちにとっては過酷すぎます。『生きるのをあきらめろ』『子どもの明るい未来はない』。みんな絶望しています」
去年11月、厚生労働省の審議会が引き上げの議論を始め、結論を出したのは、12月末でした。
国会では与野党から質問が相次ぎました。
自民党 長坂康正衆院議員
「医療の進歩により、高額な薬剤が普及し、医療費が増加していくなかで、制度を見直していくことは重要。当事者の不安の声に対して真摯に向き合うことも重要」
福岡資麿厚生労働大臣
「当事者の方々の声と、制度の持続可能性の確保という課題、両方を満たすことのできる解を見いだしてまいりたい」
政府は、修正も視野に入れていて、野党は、早く決断するよう求めています。
立憲民主党 岡本充功衆院議員
「高額療養費の見直しは、するべきだと思います。でも、今回のはあまりにひどい、本当にひどい。ここで決断すれば、多くの患者さんが救われる。彼ら彼女らの思いを、受け止めてやるべきですよ。政治決断をするべきです」
福岡資麿厚生労働大臣
「高額療養費のあり方については、さまざまな声を真摯に受け止めながら、どういう解決方法があるか、しっかり検討してまいりたい」
◆高額療養費制度の見直しによって、自己負担額の上限が、どれくらい増えるのでしょうか。
引き上げは、今年8月から2027年にかけて、段階的に行われる想定です。患者の年齢や年収によって違いますが、70歳未満で、年収が約370万円~770万円の場合のひと月の自己負担額の上限、現在は、8万100円ほどですが、今年8月からは 8万8200円ほどとなります。
来年8月からは、年収の区分が細分化され、それぞれで自己負担額の上限が変わってきます。
年収約370万円~510万円の場合の自己負担額は、8万8200円程度(約8000円増)
年収約510万円~650万円の場合の自己負担額は、11万3400円程度(約3万3300円増)
年収約650万円~770万円の場合の自己負担額は、13万8600円程度(約5万8500円増)
なぜ、見直しが検討されているのでしょうか
背景にあるのは、岸田政権時代に決めた少子化対策で、児童手当の拡充などに3.6兆円が必要になります。そのうち、1.1兆円を
社会保障費の削減で賄うとしていて、その一つとして、高額療養費の見直しが検討されてきました。
野党側は「がんや難病の治療が続けられなくなる」として、撤回を求めています。石破総理は、4日の衆議院予算委員会で「あらゆる可能性はある」として、引き上げ案の修正も視野に調整を進めるとしています。
[テレ朝news] https://news.tv-asahi.co.jp
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