焦点:トランプ米大統領の対外援助凍結、世界で混乱広がる

 2月8日、トランプ米大統領が就任後に対外援助の凍結を命じる大統領令を出してから3週間弱が経過し、世界中の救命プログラムが停止するなどの影響が広がっていると数十人の援助活動関係者と国連職員がロイターに明らかにした。写真は米首都ワシントンのUSAID前で抗議活動をする人々。3日撮影(2025年 ロイター/Kent Nishimura)

[8日 ロイター] – トランプ米大統領が就任後に対外援助の凍結を命じる大統領令を出してから3週間弱が経過し、世界中の救命プログラムが停止するなどの影響が広がっていると数十人の援助活動関係者と国連職員がロイターに明らかにした。

大統領令の発令後、ルビオ国務長官は「救命人道支援」と呼ばれる「中核的な救命薬、医療サービス、食料、シェルター、生活支援」については例外扱いとするように指示した。しかし、例外扱いを設けたことで米国が資金援助を再開しないのではないかと援助活動関係者らは疑心暗鬼になっており、混乱が拡大している。

プログラムが例外扱いになるかどうかは米国側に確認する必要がある。だが、米政府関係者との意思疎通がうまくいかない場合があるほか、解雇されたり、口止めされたりしている関係者も出ている中で不可能に近いという。

このような混乱が起こることは、トランプ政権の意図通りだったことがあらわになっている。ロイターが1月31日に確認した会議の録音によると、米国際開発局(USAID)の職員は例外措置について、それが何を含むか含まないかについて対外的に伝達しないよう指示された。

これについて米国務省とホワイトハウスはコメント要請に応じなかった。

発展途上国で援助凍結の打撃が広がり、米国が最大の援助国となり、世界的な同盟関係を構築するために数十年にわたってイニシアチブを築いてきたのをトランプ氏が覆したことの弊害が露呈している。

スイス・ジュネーブを拠点とする援助関係者は、連絡を取った米政府当局者の反応に唖然とした。関係者は「私たちはどのプログラムを中止すればいいのかを具体的に教えてくれないかと尋ねると、『これ以上のガイダンスはない』というメッセージが返ってきた。これでは、どのプログラムが『命を救う』ものなのか選択しなければならない状況に追い込まれる」とし、「自腹を切るお金はない。あるかどうかもわからないお金を使えない」と話した。

USAIDの混乱は特に深刻で、トランプ氏が新組織「政府効率化省(DOGE)」のトップに起用した米実業家イーロン・マスク氏は「犯罪集団」だと批判して閉鎖の対象とした。

自然災害と内戦の激化により、食糧危機に直面しているミャンマーの援助団体で働く2人の職員は、同国での米国の資金を使った食品の配給が例外扱いになるのかどうかは分からないとロイターに語った。1人はこの状況を「騒乱」と表現した。国連によると、ミャンマーでは推定200万人が飢饉の危機に瀕している。

バングラデシュではミャンマーから来た100万人を超えるイスラム系少数民族ロヒンギャが難民キャンプで生活しており、米国は援助資金の約55%を拠出してきた。国際的な救援組織「インターセクター・コーディネーショングループ」は現地の援助団体に宛てた未発表の声明文で、米国の対外援助凍結で「必要不可欠な救命活動の一部」が中断されたと明らかにした。

バングラデシュの国連職員はどのプログラムを続けるのかを確認しようとしたものの、米国の担当者が「電話に出ない」と説明した。

雨季に蚊が爆発的に増えるのを控えてガーナとケニアではマラリア対策のために大規模な殺虫剤散布を2月に始める予定だったが、USAIDの請負業者は殺虫剤と蚊帳が倉庫に眠ったままだと明らかにした。

マラリアは感染した蚊に刺されることによって人に感染し、予防することが可能だ。世界保健機関(WHO)は昨年12月、2023年の世界のマラリアによる死者59万7000人の大半はアフリカの5歳未満の幼児だったと発表した。

請負業者は、トランプ政権の対外援助凍結が「それらの対策を実施する小さな窓を急速に閉じようとしている」と問題視した。

米首都ワシントンに本部を置く世界的な非営利団体、マラリア・ノー・モアは対外援助凍結によって1560万人分の救命治療薬、900万人分の蚊帳、4800万人分の予防薬の配布ができなくなる恐れがあると指摘した。

米国はマラリア予防および対策で最大の支援国となっており、その大部分はジョージ・W・ブッシュ元大統領が2005年に設立した「プレジデント・マラリア・イニシアティブ」(PMI)が担っている。PMIのウェブサイトにはマラリアの危険にさらされている人々に関する情報が掲載されていたが、現在は削除されて「大統領令に沿うために内容を迅速に全体的に検証しているため、このウェブサイトは現在メンテナンス中です」と記されている。

USAIDの技術アドバイザーとして米西部モンタナ州でリモート勤務していたものの、トランプ氏の大統領就任後の今年1月28日に解雇されたアン・リン氏は「とても残酷で無意味なことだ」と嘆いた。

ハイチではエイズ(後天性免疫不全症候群)患者の治療プログラムが米国の対外援助凍結の例外扱いになるはずだったものの、具体的な指示を文書で受け取れなかったため停止していると関係者が明らかにした。国連によると、米国は24年にハイチへの人道支援の60%に当たる総額2億0800万ドルを提供していた。

<USAIDの大混乱>

USAIDはマスク氏が率いるDOGEの標的となり、職員はワシントンの本部から締め出されている。水・衛生の専門家である元職員は、1月28日に自身ら数十人が解雇された後にグローバルヘルス局が「大混乱」に陥ったと証言した。「あまりにもあっという間の出来事だったので、電子メールや連絡先を保存する術がなかった」とし、「私たちは全て捨てられ、踏みつぶされた」と悔しさをあらわにした。

タイでは米国の援助凍結により、国際救済委員会(IRC)がミャンマーとの国境にある7つの難民キャンプで運営していた病院と診療所を直ちに閉鎖せざるを得なくなった。キャンプの支援拠点のディレクター、フランソワ・ノステン氏は、多くの人々がIRCの施設から退去させられ、妊婦や子供らが薬や医療器具を利用できないままになっていると説明して「全ての活動を打ち切れば一部の人々が命を落とす」と警告する。

また、肺の疾患で入院して酸素吸入に頼っていた高齢女性は、施設から追い出された4日後に死亡したと遺族が明らかにした。

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Emma Farge reports on the U.N. beat and Swiss news from Geneva since 2019. She has produced a string of exclusives on diplomacy, the environment and global trade and covered Switzerland’s first war crimes trial. Her Reuters career started in 2009 covering oil swaps from London and she has since written about the West African Ebola outbreak, embedded with U.N. troops in north Mali and was the first reporter to enter deposed Gambian dictator Yahya Jammeh’s estate. She co-authored a winning story for the Elizabeth Neuffer Memorial Prize on Russia’s diplomatic isolation in 2022 and was also part of a team of journalists nominated in 2012 as Pulitzer finalists in the international reporting category for coverage of the Libyan revolution. She holds a BA from Oxford University (First) and an MSc from the LSE in International Relations. She is currently on the board of the press association for UN correspondents in Geneva (ACANU).

Maggie is a Britain-based reporter covering the European pharmaceuticals industry with a global perspective. In 2023, Maggie’s coverage of Danish drugmaker Novo Nordisk and its race to increase production of its new weight-loss drug helped the Health & Pharma team win a Reuters Journalists of the Year award in the Beat Coverage of the Year category. Since November 2023, she has also been participating in Reuters coverage related to the Israel-Hamas war. Previously based in Nairobi and Cairo for Reuters and in Lagos for the Financial Times, Maggie got her start in journalism in 2010 as a freelancer for The Associated Press in South Sudan.

Humeyra Pamuk is a senior foreign policy correspondent based in Washington DC. She covers the U.S. State Department, regularly traveling with U.S. Secretary of State. During her 20 years with Reuters, she has had postings in London, Dubai, Cairo and Turkey, covering everything from the Arab Spring and Syria’s civil war to numerous Turkish elections and the Kurdish insurgency in the southeast. In 2017, she won the Knight-Bagehot fellowship program at Columbia University’s School of Journalism. She holds a BA in International Relations and an MA on European Union studies.

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