日本銀行によるさらなる利上げへの期待が高まる中、円トレーダーの日本の経済指標に対する注目度が高まっている。
日銀が大規模緩和を続けていた10年間、トレーダーらは経済指標が何を示そうと緩和策の維持をほとんど疑わず、日本の指標は無視して問題ないと考えていた。そうした考え方が昨年３月のマイナス金利解除以降、変化している。
ブルームバーグが分析したデータによると、５日の毎月勤労統計調査の発表後５分間にドル・円相場は0.11％変動し、2017年以来最大の反応を示した。17日の昨年10－12月期国内総生産（ＧＤＰ）速報値では発表から５分間で0.18％と16年以降で２番目に大きな変動を見せた。
円相場で高まる国内経済指標の重要性
経済指標発表後５分間の円変動率
出所：ブルームバーグ
動きそのものはまだ限定的だが、米国の金利動向や経済指標でドル・円相場が動くことに慣れていた市場参加者の姿勢は明らかに変化している。その背景には、日銀がさらなる利上げを示唆する一方で、米連邦準備制度理事会（ＦＲＢ）が昨年後半の連続利下げの後、様子見に転じていることがある。
バークレイズ証券の為替債券調査部長、門田真一郎氏は、日本の経済指標が市場を動かすことはなかったが、最近はより大きな影響力を持つようになったと指摘。「おそらく日銀がより大きな推進力となっているためだ」と話す。
円相場と経済指標が市場予想からどの程度乖離（かいり）しているかを示す指数との連動性も強まっている。円の名目実効為替レートとシティグループの経済サプライズ指数との相関関係は0.30。完全な連動を示す1.0には遠いものの、主要10通貨で最も高い。
円とエコノミックサプライズ指標との相関性は主要通貨で最大
出所: ブルームバーグ、シティグループ、国際決済銀行（ＢＩＳ）
国内経済指標に対する円相場の感応度の高まりは、円高がさらに進む余地があることを意味しているかもしれない。最近の良好な指標は日銀が利上げを続ける根拠になっており、海外投資家や日本の外国為替証拠金取引（ＦＸ）トレーダーが円売りポジションの削減に動いて円の上昇が加速する可能性を高める。
米商品先物取引委員会（ＣＦＴＣ）のデータでは、ヘッジファンドによる円の売り越しが減少する一方、アセットマネジャーは21年以来最大の円の買い越しとなっていた。一方、ブルームバーグの分析によると、日本のＦＸ投資家は２月に円売りポジションを約７割増やしたと推計される。こうした他通貨との金利差に着目して構築されたポジションが解消されれば、円高が勢いづきかねない。
２月に発表された国内指標では、名目賃金が約30年ぶりの高い伸びとなり、ＧＤＰは予想を上回るプラス成長となった。28日発表の２月の東京都区部消費者物価指数（ＣＰＩ）は日銀の利上げ路線の支援材料になると予想されており、通貨オプションの指標（リスクリバーサル）は市場が向こう１カ月で円高が進むとみていることを示唆している。
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逆張りの個人投資家は円売りポジションを増加
出所：ブルームバーグ、金融先物取引業協会、東京金融取引所、米商品先物取引委員会
マネックス証券の債券・為替トレーダー、相馬勉氏は、マーケットは「円高方向の材料を探してる」と指摘する。
もっとも、オーバーナイト・インデックス・スワップ（ＯＩＳ）市場が年内に確実視する日銀の追加利上げは１回のみで、日米の大きな金利差は引き続き円の重しとなる。円高の進行は利上げ時期の判断で日銀に柔軟性を与えることにもつながる。
ＪＰモルガンは予想外の経済指標が円相場に与える影響について、過去２年間において賃金関連指標のサプライズが最も説明力があったと分析する。日銀が賃金上昇のモメンタムとそれが企業の価格設定行動に与える影響に注目していることを強調しているためだ。
棚瀬順哉、斉藤郁恵両ストラテジストはリポートで、円はインフレや政策金利期待にはまだあまり反応していないが、「いずれ正常化するだろう」と予想。円が追加利上げ期待の高まりをあまり織り込んでいないことを踏まえると、今後物価指標に対する感応度が高まれば、「インフレが予想比上振れた際の円の上昇は比較的大きなものになる可能性がある」と指摘している。
ラボバンクのＧ10外国為替戦略責任者、ジェーン・フォーリー氏は、円は今年、ドルとユーロに対してさらに上昇し、他の主要通貨をアウトパフォームすると予測している。
「日銀の植田和男総裁が数カ月前からデフレを過去形で語っているのに対し、投資家は最近になってようやくデフレ脱却への疑念を捨て始めたようだ」と同氏は指摘。「これが経済指標の発表に注目が集まっている理由だろう」と述べた。
(第６段落と第14－15段落を追加しました。更新前の記事は第５段落の役職を訂正済みです)
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