トランプ米大統領は1期目に続き、中国からの輸入削減に向けて動いている。世界2位の経済大国の中国を切り離し、主要戦略分野で自給自足を確立したいと考えている。今回の違いは、第三国を経由した製品の迂回輸入を取り締まることだ。1月15日撮影のイメージ写真(2025年 ロイター/Dado Ruvic/Illustration)
[ムンバイ 6日 ロイター BREAKINGVIEWS] – トランプ米大統領は1期目に続き、中国からの輸入削減に向けて動いている。世界2位の経済大国の中国を切り離し、主要戦略分野で自給自足を確立したいと考えている。今回の違いは、第三国を経由した製品の迂回輸入を取り締まることだ。トランプ政権の方針は、世界のサプライチェーン(供給網)を激変させることを物語る。
トランプ氏は復帰7週目で既に2回にわたって中国からの輸入品の関税を引き上げ、既存関税に計20%ポイントを上乗せした。これは大部分のエコノミストが世界での幅広い貿易戦争に発展すると想定していた基準と一致し、今後も関税の引き上げは続くと予想されている。
第1次トランプ政権が中国からの輸入関税を引き上げたのを背景に、企業は中国への過度の依存を是正するため投資や供給網の多様化を図る「チャイナ・プラス・ワン」を進めた。もともとは中国の人件費高騰に対処するための戦略だったのが、米中関係悪化による地政学的リスクを緩和する方法へと変化した。
米国勢調査局によると、2024年の輸入品に占める中国の割合は13.4%となり、17年より8%ポイント低下。一方、国連貿易開発会議(UNCTAD)の統計によると、世界のモノの輸出に占める中国の割合は同じ期間に12.7%から14.2%へと上昇した。
A line chart showing that U.S. imports from Mexico have overtaken China’s, while Vietnam is rising fast
中国製商品の一部には単に第三国を経由して米国に届くものもあり、大部分の場合は第三国では最低限の付加価値しか与えられていない。米国勢調査局によると、ベトナムからの輸入は24年に1370億ドルと17年の3倍に膨らみ、メキシコからの輸入は66%近く増えて5060億ドルとなった。投資銀行ナティクシスの分析によると、メキシコからの輸入品は自動車と自動車部品が大半を占める一方、ベトナムは通信機器や録音機器、家具、履物の分野が急増した。
トランプ氏が復帰初日に署名した大統領令「米国第一通商政策」は、迂回貿易に対処するために供給網に適用する関税の見直しを求めている。ベトナムはこの種の制裁に対して特に脆弱なように映る。野村証券の調査によると、ベトナムの輸出総額のうち国内で産出した金額の割合を示す国内付加価値は20年に50%となり、10年前より5%ポイント低下した。これに対し、インド、マレーシア、メキシコは平均64%で、同じ期間に増加または横ばいだった。
The chart shows that Vietnam’s share of domestic value added in gross exports has decreased
トランプ氏の政策の最終的な狙いは依然不透明だが、チャイナ・プラス・ワンの貿易にはさまざまな展開があるかもしれない。米国は製造業の復活を目指している。この取り組みは鉄鋼やアルミニウム、医薬品、自動車、半導体などのハイテク製品を含めた戦略分野に焦点を当てる可能性がある。野村証券の日本以外のアジア担当チーフエコノミスト、ソナル・バルマ氏は、米国が競争する意味がない低価格帯の製造業については、トランプ氏は中国へのエクスポージャーがより少ない同盟国からの輸入を好むかもしれないとの見方を示す。
このシナリオに基づくと、ベトナムは敗れることになる。中国の貿易と投資の両面で大きな引き受け手になっており、東南アジアでの製造拠点の構築に力を入れてきたからだ。韓国サムスン電子(005930.KS), opens new tabや米ナイキ(NKE.N), opens new tabのようにベトナムに主要拠点を構えている企業にとっては頭痛の種だろう。Chart shows a chunky share of China’s greenfield manufacturing FDI is taken by Vietnam.
バルマ氏は、対照的にインドは恩恵を受けるチャンスがあると指摘する。インドのモディ首相が2月に訪米した際、両国が25年秋までに貿易協定の第1段階を締結し、30年に二国間貿易を5000億ドル相当に倍増させることで合意したのは注目に値する。
インドは依然として中国製部品に大きく依存している一方、投資に占める米国の割合が高まっている。インド産業・国内貿易振興省によると、2000年以降の外国直接株式投資流入額の10%を米国が占めている。米国を上回る比率なのはタックスヘイブン(租税回避地)のモーリシャスと、シンガポールだけだ。
それでも、インドはアップル(AAPL.O), opens new tabのサプライヤーの獲得で成功したことを除くと、中国からの生産移転で限られた成果しか出ていない。トランプ氏は4日の上下両院合同会議の施政方針演説でインドの高関税を非難した。
バルマ氏は、結局のところ中国の製造業の実力は中国を締め出すことを難しくしているとして「攻防戦のようなもので、政策立案者が1つの抜け穴をふさごうとするたびに、企業が関税を回避する別のルートを見つける」と言及した。
The chart shows significant share of India’s foreign investment is attracted from the US.
結果として、中国製部品の使用を最小限に抑えた米国中心の供給網がより際立つかもしれない。HSBCの首席アジアエコノミストのフレデリック・ニューマン氏は既存の供給網の効率と規模の経済を再現することは難しいため、国単位ではなく製品単位で見直すかもしれないとの見方を示した。この場合、ベトナムは生産を続けるかもしれないものの、その部品がどこから来たのかによって異なる市場に送られることになる。
全体として米国の中国に対する反感は根深く、中国の輸出や投資に対して米国が攻撃を緩和することにつながる包括的な取り決めで両国が合意するとは考えにくい。さらに重要なのは、第三国や企業がそのような取り決めを守れるとは考えにくいことだ。
このことは、今後数週間から数カ月間に行動が予測不可能なトランプ氏が何をしようとも、チャイナ・プラス・ワンの貿易を撤回するのはより難しくなることを示している。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
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筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
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