日常生活を送る中で、「時間がない」と感じることはないだろうか。実際、日本のビジネスパーソンの7割以上が日々の生活で「時間に追われていると感じる」という調査結果もある。仕事や家事に追われ、気づけば1日が終わっている──そんな生活が続くと、慢性的なストレスや燃え尽き症候群のリスクも高まるだろう。しかし、時間は本来、自分のものであり、その使い方を決める権利も私たちにあるはずだ。

スペインでは2025年2月、そんな「時間」に関する新たな決定がなされた。同年末までに、給与を維持したまま、法定の労働基準時間が週37.5時間に短縮されるのだ。同国のヨランダ・ディアス第2副首相兼労働相が、労働組合と連携して合意に至ったという。

週5日勤務の場合、現在の標準的な労働時間は週40時間。今回の改革により週37.5時間となれば、1日あたりの労働時間が平均30分削減される。

法案が最終的に実施され、柔軟な勤務形態が受け入れられるかどうかは業種や企業の方針次第。現時点で労働時間短縮には賛否の声がある。個人のウェルビーイングを考えると、労働時間の短縮は従業員にとって歓迎される。一方で一部の雇用主団体は、この改革によって従業員数を増やす必要性が出てくるなど、企業のコスト増加を指摘。競争力を損なう可能性を懸念している。

経済省は、小規模企業の適応を考慮し、改革の実施を1年遅らせる提案をした。これに対し、ディアス第2副首相兼労働相は改革の遅延を受け入れない姿勢を示し、労働省と経済省の間で緊張が高まっている状況だ。

スペインで40年以上ぶり(※1)の大きな改革となる今回の労働時間短縮政策。現在、スペインでは働き方に関連する施策として「Time Use Initiative」という政府の取り組みも進んでいる。労働者が労働時間に過剰に縛られることなく、より充実した生活を送るために労働時間の使い方を見直すことを目的に、効率的な時間配分を促進するためのイニシアチブだ。

例えば、子育てや介護をしている家庭では、自由に使える時間を確保するのが難しい。そこで、政府は育児休暇の延長や保育所の充実を進め、家庭と仕事の両立を支援。また、都市から離れた場所に住む労働者に向けては、通勤時間の短縮やフレックスタイム、テレワークを推奨・支援している。政府は、特に中小企業が改革を円滑に進められるよう、支援策や助成金を提供している(※2)。

今回の改革は、スペインの労働者にとってより良いワークライフバランスをもたらすのか。それとも、一部企業の反発により8時間勤務が変わらず続くのか。今後、法案の承認には与野党の合意が必要であり、労働時間短縮が生産性向上や経済成長にどのように影響を与えるかが焦点となっていくだろう。

※1 From 48 to 37.5 hours: all the times the working day has been reduced in Spain  JORNADA LABORAL 
※2 Bolsa de horas y colegios abiertos por la tarde y los sábados, principales medidas de la ley de Conciliación SER
【参照サイト】Spanish ministers agree to cut legal working week to 37.5 hours
【参照サイト】Experts call for policies to tackle ‘time poverty’ at Time Use Week 2024
【参照サイト】Slow down and hit pause
【参照サイト】Spain looks to immigrants to drive economy
【参照サイト】TIME USE INITIATIVE
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Edited by Megumi

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