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2025.03.05


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オーストラリア景気は底打ち、RBAの判断や豪ドル相場はどうなる?
~RBAは「タカ派」姿勢を維持する可能性も、豪ドルは米ドル、日本円に対して上値の重い展開が続くか~



西濵 徹



要旨

このところのオーストラリア経済は内・外需双方で景気の足を引っ張る材料が山積してきた。ただし、インフレは2022年末に一時33年ぶりの高水準となるも、商品高の一巡や政権の補助金政策も重なり下振れしている。足下ではRBAが重視するすべてのインフレ指標は目標域に収まるなど落ち着きを取り戻している。よって、RBAは先月にコロナ禍一巡後初の利下げを決定するなど高金利政策からの転換に動いた。
しかし、RBAは先行きの政策運営に対しては「タカ派」姿勢を堅持する考えをみせる。この背景には、足下の雇用環境が依然堅調な推移をみせていることがある。足下の企業マインドは底打ちするなど改善の兆しがみられる上、雇用環境の改善に繋がることも見込まれるなど、RBAは難しい判断を迫られる局面が続く。
さらに、昨年10-12月の実質GDP成長率は前期比年率+2.35%と丸2年ぶりの水準に加速するとともに、前年比ベースも+1.3%と加速するなど底入れが確認された。外需の堅調さに加え、インフレ鈍化も追い風に内需が押し上げられるなど幅広く改善する動きがみられる。ただし、分野ごとの生産動向に跛行色がうかがえる一方、先月の利下げを受けて不動産市況は再び底打ちするなどRBAの判断に影響を与え得る。
豪ドルの対米ドル相場は中国景気の不透明感や米トランプ政権の通商政策が重石となる展開が続くなか、先行きも米ドル高が上値を抑えると見込まれる。さらに、日本円に対しては日銀による追加利上げ観測という金融政策を巡る方向性の違いも相俟って上値の重い展開が続く可能性に留意する必要がある。


このところのオーストラリア経済を巡っては、最大の輸出相手である中国経済の不透明感の高まりに加え、米トランプ政権の通商政策をきっかけにした世界貿易の混乱が外需の足かせとなる懸念が高まっている。他方、ここ数年は商品高や国際金融市場での米ドル高を受けた通貨豪ドル安に伴う輸入物価の押し上げも重なり、インフレが上振れする展開が続いてきた。さらに、RBA(中銀)はコロナ禍対応を目的に異例の金融緩和に舵を切ったことで金融市場はカネ余りの様相をみせる一方、コロナ禍の影響一巡を受けた住宅需要の高まりを追い風に不動産市況は急騰する事態に直面した。結果、RBAは物価と為替、不動産市況の安定を目的に高金利政策を維持したものの、物価高と金利高の共存が長期化するなかで家計消費をはじめとする内需に下押し圧力が掛かる動きがみられた。よって、内・外需双方で実体経済に下押し圧力が掛かるなど景気は頭打ちの様相を強めてきた。

インフレはRBAが定める目標域を大きく上回る推移をみせるとともに、2022年末には一時33年ぶりとなる高水準となったものの、商品高の一巡を受けてその後は頭打ちに転じる動きをみせてきた。さらに、上述したように足下の景気は頭打ちの様相を強める一方、同国では今年5月までに連邦議会下院(代議院)総選挙が行われるなか、アルバニージー政権は電力料金を対象とする補助金政策に動くなど物価抑制に向けた動きを強めている。よって、昨年後半以降のインフレは一段と下振れしてRBAが定める目標域に収まるとともに、足下においてはRBAが重視するすべてのインフレ指標が目標域に収まるなど落ち着きを取り戻す動きをみせている(注1)(図1)。上述のように、RBAは物価と為替の安定を目的に長期に亘って高金利政策を維持してきたものの、足下の景気は頭打ちの動きを強めるとともに、物価も落ち着きを取り戻す動きをみせていることも重なり、先月の定例会合でコロナ禍の影響一巡後初の利下げを決定した(注2)。

図表図表

このように景気の足を引っ張ってきた物価高が変化するなかでRBAは利下げに舵を切ったものの、先行きの政策運営について「抑制的であり続ける必要がある」との認識を示すとともに、利下げの決定についても「難しい判断であった」との見方を示すなど『タカ派』姿勢を崩していない様子がうかがわれた。この背景には、足下の景気は頭打ちの様相を強めるとともに、昨年7月から最低賃金が大幅に引き上げられるといった動きにも拘らず、雇用を取り巻く環境は依然として底堅い動きをみせていることがある。足下の雇用環境を巡っても、正規雇用の拡大の動きが雇用全体を押し上げる動きがみられるとともに、地域別でも幅広い地域で雇用拡大の動きが確認されるなど、依然として労働需給がひっ迫している動きがみられる(図2)。ただし、総労働時間はわずかに減少するとともに、賃金上昇の伸びも頭打ちするなど物価への影響は見通しにくい状況ではあるものの、足下の企業マインドは底打ちする動きがみられるなかで先行きの雇用環境は引き続き底堅く推移する可能性はくすぶる。こうした状況もRBAが慎重姿勢を崩せない一因になっているとみられる。

図表図表

また、上述したようにこのところの同国景気は内・外需双方で頭打ちする動きがみられたものの、昨年10-12月の実質GDP成長率は前期比年率+2.35%と前期(同+1.28%)から加速して丸2年ぶりの伸びとなっている上、中期的な基調を占める前年同期比ベースでも+1.3%と前期(同+0.8%)から加速するなど一転して底入れする動きが確認されている(図3)。昨年末にかけての中国景気の底打ちに加え、米トランプ政権の発足を前にした『駆け込み』の動きも重なる形で財、サービスの両面で輸出が押し上げられるなど、外需の底入れの動きが足下の景気を下支えする動きがみられる。他方、インフレ鈍化による実質購買力の押し上げに加えて、堅調な雇用環境が続いていることも重なり、頭打ちしてきた家計消費は拡大している。また、高金利政策の長期化を受けて不動産需要は依然として弱含む推移が続くも、企業部門による設備投資意欲は底打ちするなど、民間需要を中心に内需も底打ちする動きをみせている。なお、幅広く内需が底打ちする動きをみせているにも拘らず輸入の拡大ペースは力強さを欠いており、純輸出(輸出-輸入)の成長率寄与度は前期比年率ベースで+0.65ptと前期(+0.42pt)からプラス幅が拡大するとともに、在庫投資による寄与度も同+0.21ptと3四半期ぶりのプラスとなるなど在庫が積み上がる動きをみせていることに留意する必要がある。

図表図表

さらに、分野ごとの生産動向を巡っても、内需底打ちの動きを反映してサービス業の生産は拡大しているほか、異常気象による悪影響が一巡したことも追い風に農林漁業の生産は底入れの動きを強めており、足下の景気底入れの動きを促している。その一方、鉱業や製造業、建設業の生産は下振れするなど対照的な動きが続いており、長期に亘る高金利政策が設備投資の重石となる展開が続いたことで供給サイドの足かせとなっている可能性がある。よって、業種ごとの跛行色がこれまで以上に鮮明になっている様子がうかがえる。他方、RBAの高金利政策が長期化するなかで昨年末以降は頭打ちする兆しをみせた不動産市況を巡っては、先月の利下げ実施を受けてわずかながら反転する動きが確認されている(図4)。アルバニージー政権は不動産市況の沈静化を目的に、今年4月から2年間外国人投資家による中古住宅の購入禁止に動くなど政策対応を強化させているが、駆け込みの動きに加えて利下げが需要を押し上げる可能性には引き続き要注意である。

図表図表

足下の豪ドル相場を巡っては、対米ドルではRBAが依然としてタカ派姿勢を維持するなど下支えに繋がる動きがみられる一方、最大の輸出相手である中国経済を巡る不透明感に加え、米トランプ政権の通商政策を受けた米中摩擦の激化や同国の対米輸出への悪影響が警戒されるなかで上値が抑えられる展開が続いている。また、日本円に対しては日本銀行による追加利上げが意識されるなど金融政策の方向性の違いも相俟って一段と下振れする展開が続いている(図5)。先行きの豪ドル相場についても、RBAはタカ派姿勢を維持する可能性はあるものの、米ドルに対しては米トランプ政権の通商政策が米国のインフレを招くことが警戒されるなかで上値が抑えられる展開が続くほか、日本円に対しても同様に上値の重い動きが続くことに留意する必要があろう。

図表図表

以 上



西濵 徹

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