トランプ米大統領は3日、メキシコとカナダに対し4日に発動予定の25%関税について両国が一時的猶予を交渉する「余地は全くない」と述べた。二大貿易相手国に対する容赦ない措置で世界貿易の改造を推し進める姿勢を明確にした。

  トランプ氏はホワイトハウスで記者団から、隣国が発動延期の合意をまとめる可能性について問われた際、「メキシコにもカナダにもその余地は全くない」と答え、「すべて準備が整っている。明日発動される」と述べた。

  4日に発動予定の関税は、年間およそ1兆5000億ドル(約225兆円)相当の輸入品に適用され、トランプ政権下としては最も広範囲に及ぶ措置の一つとなる。 カナダとメキシコからの全輸入品に25%の関税を賦課するが、カナダのエネルギー関連製品には10%の税率を適用する。 

  トランプ氏は「関税は簡単で迅速かつ効率的であり、公平性をもたらす」と指摘。「この国を利用しようとすれば、非常に高くつくことになる。彼らは関税によって罰せられるのだ」と述べた。

  ホワイトハウスはその後、トランプ大統領が中国に対する関税率を現行の2倍の20%にする措置に署名したと発表。米国への合成麻薬フェンタニルの流入への対処で中国が「十分な措置を講じていない」と指摘した。

トランプ大統領の記者会見

Source: Bloomberg

  大統領の発言後に米株式市場で売りが加速。S&P500種株価指数は1.76%安で終了。カナダ・ドルとメキシコ・ペソも急落した。

  トランプ氏の発言を受け、カナダのジョリー外相はトルドー首相が2月初旬に発表した報復関税実施の準備ができていると述べた。

  報復関税はまず、米国から輸入されるオレンジジュースやピーナツバター、ワイン、コーヒーなど約300億カナダドル(約3兆1000億円)相当の品目を対象に実施。その後、自動車やトラック、鉄鋼、アルミニウムを含む1250億カナダドル相当の製品に対する第2弾も数週間以内に発効する予定。

  ジョリー外相は「われわれにとって存続にかかわる脅威であり、カナダで何千もの雇用が危機にひんしていることを理解している。米国が貿易戦争の開始を決めるのなら、われわれには準備ができている。われわれはそれを望んではいないし、求めてもいない」と述べた。

  カナダ・ドルと同国の株価は急落。指標のS&Pトロント総合指数は1.5%下落し、昨年12月18日以来の大幅安。

  大西洋評議会のジオエコノミクスセンター上級ディレクター、ジョシュ・リプスキー氏は「北米貿易戦争の瀬戸際に立たされている」と述べ、「市場は、トランプ大統領が関税について本気だという事実を認識した」と指摘した。

  ジョンソン上院議員(共和、ウィスコンシン州)は3日、トランプ大統領による対カナダ・メキシコ関税がインフレを悪化させるとの懸念を表明。「あらゆる種類の供給ラインやサプライチェーン(供給網)が混乱し、消費者の負担が増える恐れがある」と議事堂で記者団に語った。

  アンダーソン経済グループの新たな研究によると、カナダとメキシコに対する関税により、自動車会社は増大したコストを消費者に転嫁する公算が大きく、米国の自動車価格は最大1万2000ドル上昇する可能性がある。

  トランプ大統領の発言に対し、メキシコ側の反応は現時点ではない。シェインバウム大統領は3日の記者会見で、報復措置を取る前にトランプ大統領の最終決定を待つと述べていた。

  中国商務省は声明で、同国は米国の関税賦課に対し、自国の権利と権益を守るため必要な対抗措置を取ると表明した。

  新たな関税の導入は、トランプ氏が望む減税の一部の財源捻出に役立つほか、関税の脅しは交渉目的で使うはったりだとする説を少なくとも当面は後退させるかもしれない。

  だが、関税発動はインフレの再燃につながりかねない上、自動車産業を中心に北米サプライチェーンを混乱させ、トランプ氏自身が政権1期目に再交渉した「米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)」に基づき法的措置を招く恐れがある。

  トランプ氏は会見に先立ち、「外国産」農産物への関税を4月2日に発動することも明らかにした。

  同氏は「米国の偉大なる農業従事者にメッセージだ。米国内で販売される大量の農産物を生産し始める準備をせよ。外国産の製品に4月2日に関税が賦課される。お楽しみに!」とソーシャルメディアに投稿。対象品目や例外などの詳細には言及しなかった。

  トランプ氏は4月1日までに受け取る報告に基づいて他の関税の導入も計画している。その一つが「相互関税」と呼ばれる措置で、他国の関税と貿易障壁、税制などを考慮した計算に基づいて、国ごとに異なる税率を課す。

  もう一つの措置は、特定の分野に対する一連の関税で、3月12日には鉄鋼・アルミニウムにする25%の関税が発効し、カナダとメキシコに大きな影響を与える見通し。

  また、トランプ氏は自動車や半導体、医薬品に対するセクター別関税も計画しており、これらは4月2日にも発動される可能性がある。さらに、同大統領は銅への新たな輸入関税賦課につながる可能性がある調査を商務省に指示。1日には、輸入木材がもたらす国家安全保障上の脅威について調査するよう商務省に命じ、新たな関税導入に向けた法的な下地を整えた。これもカナダを標的としているとみられる。

原題:Trump Says ‘No Room Left’ for Canada, Mexico to Duck Tariffs (5)、Trump Says ‘No Room Left’ for Canada, Mexico to Duck Tariffs (4)、US to Slap Tariffs on Crop Purchases as Food Imports Balloon (3)、Canada Is Set to Retaliate Against US Tariffs, Minister Says (1) (抜粋)

(15段落目に中国の反応を追加して更新します)

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