YZF-R9はフロントのフィーリングがバツグンで、扱いやすいのに速い!
ヤマハ YZF-R9は、走行開始後の数周の慣熟走行においては、やや穏やかな印象はあるもののYZF-R6によく似ていると感じた。ライディングポジションはYZF-R6ほど過激ではないが、取り付け位置が低く幅の狭いハンドルバーと高い位置にあるフットペグにより、かなりアグレッシブである。
幅広の燃料タンクに伏せると、自分がバイクの一部になったような気分になる。ある程度ペースを上げていっても、KYB製前後サスペンションと標準装着タイヤのブリヂストン製バトラックス・レーシングストリートRS11(*)からは路面の情報がしっかり伝わってくる。
*編集部註:ヨーロッパ仕様。北米仕様はブリヂストンのバトラックス・ハイパースポーツS22が標準装着される。日本仕様はRS11が装着される。
車体はYZF-R6を彷彿とさせるものだが、エンジンはそれほどピーキーではなく、より扱いやすい。ギヤ選択を誤っても問題なく、3気筒エンジンならではの幅広いトルクバンドを利用して、YZF-R6やほかの600cc並列4気筒車では夢見ることしかできなかったような、クリッピングポイントからの力強い立ち上がりを堪能できる。
YZF-R9はユーザーフレンドリーで、初めてサーキットを走るビギナーや、これまで走ったことのないコースを攻略しようとしている経験豊富なライダーに最適と言える。非常に軽量でパワーデリバリーもハンドリングも軽快であり、レーシーなウイングレットとレーシングバイクさながらのフロントフェイスは少し威圧的にも見えるが、乗り始めてから数周のうちに、ただ飛び乗るだけで活発に走れるイージーなバイクであることが明示される。
コースのまだ湿っている箇所が把握できたので、身をかがめてペースを上げていく。ヤマハは試乗車にオプションのGPSユニットを取り付けており、それと連動して5インチTFTディスプレイに映し出されるバーチャルピットボードのおかげで、各周回で表示されるラップタイムを短縮していくのが任務のようになった。ラップタイムは、スタート&フィニッシュラインを通過するたびにディスプレイ上にはっきりと表示された。
ラップタイム更新を狙っているときでも第3世代のクイックシフターは非常にスムーズに機能し、高回転でのシフトダウンも問題ない。スーパースポーツモデルでラップタイムを追い込んでいくときに重要なフロント周りのフィードバックは優れており、これもYZF-R6と非常によく似ていると感じた。少しオーバースピードで高速コーナーに進入し、クリッピングポイントのかなり深いところでブレーキを掛けた場合でも、安心感と自信を与えてくれる。
コースを周回している間、試乗車はABSが完全にキャンセルされていること、また、公道向けの標準装着タイヤを履いていることを何度か自分に言い聞かせなければならなかったが、それでも自由さを失うことなく走れた。YZF-R9の車体セットアップ、特に43mm径のKYB製フロントフォークは、それほどに優れている。
コーナーへの進入では、ヤマハが数十年掛けて作り上げたほぼ完璧なライダーサポート形状を踏襲した燃料タンクのおかげで、自然にイン側に体を入れられる。YZF-R6と同様に、背の高いライダーの中には位置調整可能なフットペグを低い位置に変更したいと訴えた人もいたが、私は十分な地上高を確保できる高めの設定で問題なかった。
コーナリング中は車体の動きに没入することができ、各クリッピングポイントに到達するたびに「もっと速く走れた! コーナーリングのスピードをもっと上げるべきだった!」と思わされる。公道用タイヤではヒジ擦りをするほどのバンク角を取ることはできなかったが、もしスリックタイヤを履いていたらどのようなパフォーマンスを発揮するのか……非常に興味深い。
コーナーの出口では、シンプルにどれだけライダーに勇気があるか、タイヤのグリップ力にどれだけ余裕があるかが問題になる。200馬力のYZF-R1では、パワーを解き放つ前に待つ必要があった。YZF-R6では、常に理想的な回転数で立ち上がるために完璧で正確な操作をする必要があった。しかしYZF-R9では、早めかつ余裕を持ってパワーに乗ることができるので、完全でなくズボラな運転をしても許される。常に乗り手に付き従ってくれるような特性だ。
20分間のセッションの終わりに近づくと、公道向けに設計されたタイヤが不満を言い始めた(しかし、フィードバックは依然すばらしい)。振り返ってみると、夢中になって高回転型エンジンを積むYZF-R6のように走らせていたせいで、何度もレブリミッターにぶつかっていた。YZF-R9はYZF-R6を上回るトルクとパワーを備えているのだが、約1万500回転で打ち止めになるのは、スポーツバイクとしては比較的レブリミットが低いと言える。
標準のギヤ比設定がセビリアサーキットに合っていなかった影響も大きい。ギヤを保持したままでいたいが、回転数が限界に達してしまうセクションがいくつかあったからだ。あと数千回転の余裕があれば、ラップタイムをもっと短縮できただろう。
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