第一生命経済研レポート
2025.02.19
欧州経済
欧州経済全般
内外経済ウォッチ『欧州~脱炭素と競争力の両立~』(2025年3月号)
田中 理
目次
2024年12月にフォン・デア・ライエン委員長が率いる欧州委員会の新体制が始動した。同委員会は、ドイツやフランスなど欧州の27ヶ国が加盟する欧州連合(EU)の政策立案を担う行政執行機関だ。2019~24年の第一期では、2050年の気候中立を目標に「欧州グリーンディール」を掲げ、脱炭素を推進してきた。だが、エネルギー調達費用の高止まり、規制対応や行政負担の重さ、米国との生産性格差、中国との競争激化などを背景に、欧州の産業競争力に対する懸念が高まっている。
競争力との関係で問題視されているのが、エネルギー価格の高止まりだ。ロシアによるウクライナ侵攻以前、ドイツやイタリアなどはロシア産の安価な天然ガスにエネルギー資源の多くを依存していた。ロシア向け制裁発動とロシアによる報復措置を受け、ロシアからの化石燃料輸入が大幅に減少した。代替エネルギー源として、ノルウェーや北アフリカからのパイプライン輸送の強化に加えて、米国や中東からの液化天然ガス(LNG)の輸入を拡大している。代替調達先の確保やガス備蓄の義務付けなどを受け、欧州のエネルギー調達費用は2022年夏のピーク時と比べて大きく低下している。だが、現在も米国と比べると、ガス価格が4~5倍、エネルギー価格が2~3倍の水準にあり、競争力の確保が難しい状況にある。
フォン・デア・ライエン委員長は二期目の就任直後の1月末、「競争力の羅針盤」と題する包括的な戦略文書を公表した。これは欧州中央銀行(ECB)総裁やイタリア首相などを歴任したドラギ氏が昨年9月にまとめた報告書(通称ドラギ・レポート)を土台にしている。そこでは、①米国や中国とのイノベーション格差の縮小、②脱炭素と競争力の両立、③域外依存の低減と安全保障体制の強化を掲げ、変革に必要な各種の戦略、規制、法律、行動計画、施策などを提示している。
こうした戦略の実現には、政治的なハードルや資金面での制約も少なくない。報告書の土台となったドラギ・レポートでは、課題克服には年間で7500~8000億ユーロもの巨額の追加投資が必要になると試算している。これはEUの国内総生産(GDP)の4~5%に相当する。EUでは過去の競争政策が失敗に終わったこともあり、今回の戦略の実効性を疑問視する声も少なくない。だが、地政学リスクの高まり、中国の技術覇権への脅威、米国でのトランプ大統領の再登板などが、欧州のリーダーの間で危機感を共有することにつながり、政策進展を後押しする期待もある。脱炭素と競争力強化の両立を目指す欧州の取り組みは、同じくエネルギー資源の多くを海外に依存し、競争力低下に苦しむ日本にとっても参考となりそうだ。
田中 理
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