(英フィナンシャル・タイムズ紙 2025年4月1日付)
ワシントンに戻るためフロリダ州を発つトランプ大統領(3月20日、写真:ロイター/アフロ)
全米民主主義基金(NED)のような米国の組織は何十年にもわたり、政治的な自由について世界に教えようとしてきた。
だが、今は米国人自身が多少のアドバイスを必要としているのかもしれない。
トルコやロシアのような場所のアナリストは自国で強権支配が確立されるところを目の当たりにしており、ドナルド・トランプの米国で似たようなパターンが展開しているのが分かる。
迅速に動くことが肝要
カーネギー財団ロシア・ユーラシアセンターのアレクサンドル・ガブエフは「米国のリベラル派の間で今聞かれる会話は(ウラジーミル・)プーチンが権力を握った直後のモスクワのインテリを思い出させる。同じ戸惑いと深い懸念がある」と言う。
ガブエフの助言は、民主主義と法の支配を守りたい米国人は速やかに動く必要があるというものだ。
彼いわく、不当な身柄拘束や無視される裁判所の判決は、一つひとつが「アドバルーン(観測気球)」だ。
効果的な反発がなければ、独裁を目指す権威主義者がさらに速く、さらに大きく踏み込む。
ホワイトハウスは最初に不人気なグループと非市民を標的にし、ベネズエラのギャングの一員とされる移民や外国籍の学生活動家を狙うことで、抜け目なくスタートした。
だが、違法な強制送還はガブエフが警告した類の「アドバルーン」だ。抵抗がなければ、トランプは新たな標的へ移っていくだろう。
トルコ人ジャーナリストで、現在は米ワシントンのブルッキングス研究所に所属しているアスリ・アイディンタシュバシュは、窮地に立たされた米国のリベラル派が「内向き」になろうとする気持ちは理解できると言いつつ、それは過ちだと考えている。
最近ある寄稿で書いたように「ダンスや旅行、瞑想、読書クラブ――これはすべて素晴らしい」。
だが、最終的には「民主主義のための闘争に参加する以上に有意義なことはない」――。
民主主義のための闘いは困難で危険な行為
この闘争は多くの場合、困難で恐ろしいものだ。
インドの学者のプラタップ・バーヌ・メータは、民主主義を崩すことに血道を上げるレジーム(独裁的な政治体制)は「蔓延する恐怖心を生み出す」ことから始めると指摘する。
ひとたび人々が自分の仕事や資金援助、自由を失うことに怯えるようになれば、鳴りを潜めることで最も抵抗の少ない道筋を選ぶ公算が大きくなるからだ。
ワシントンにあるアラブ湾岸諸国研究所のフセイン・イビッシュは「企業や大学、法律事務所、メディア企業などが(トランプの)世界観や態度、さらには望ましい言葉遣いに従おうと躍起になるなか、すでに恐怖心が滝のように米国社会全体に広まっている」と指摘する。
メータはナレンドラ・モディのインドの経験に基づき、恐怖心が蔓延した環境では「独立した機関がこっそり適応し始める。時間が経つとともに最も優秀なプロでさえ、立場を鮮明するメリットよりも抵抗するデメリットの方が多いと考えるようになる」と書いた。
そして単独で行動する人や企業は「見せしめとして格好の標的」にされる恐れがある。
メータは「集団的な行動は本当に困難だ」と考察している。だが、集団的な行動は決定的に重要でもある。
ポール・ワイスやスキャデン・アープスのような個々の法律事務所がトランプから標的にされ、集団として反撃せずに問題をカネで片づけた場合、ホワイトハウスが同じ戦術を繰り返すことは避けられなくなる。
政権と手を打つことにより、両社は法律事務所がよりどころとする法の支配を弱体化させることになる。
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