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著者の加藤 嘉一が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。

「トヨタ、日立、ベンツ、サムスン…外資企業の中国投資と相互関税。トップ40人へ習近平が語ったこと」

習近平国家主席が北京で会談した外資企業代表の顔ぶれ

 3月の全国人民代表大会(全人代)を扱ったレポート「中国全人代開幕。GDP目標は5%前後。景気低迷&デフレへの警戒心強まる」で検証したように、中国政府は今年、景気低迷圧力に見舞われる中でも、財政出動や金融緩和などを通じて、昨年同様「5.0%前後」の成長率目標を何とか達成するという目標を掲げています。

 一方、トランプ第2次政権の発足を受けてさみだれ式、かつ不透明に米国発で打ち出される対外(追加)関税や劇的な展開を見せているかのように見えるロシア・ウクライナ情勢など、中国経済を取り巻く外部環境は一層複雑化、深刻化しているというのが中国政府のスタンスであり、「トランプ関税」を含め、2025年の中国経済にとっての不確定要素、下振れ圧力になり得るという懸念を習近平(シー・ジンピン)政権としても強めているように見受けられます。

 そんな中、2025年3月28日、習近平国家主席が北京の人民大会堂に、外資企業の代表40名超を招き入れ、会談を行いました。例として、次のような会社の代表が参加しました。

ブリッジウォーター・アソシエイツ:レイ・ダリオCEO

ブラックストーン・グループ:スティーブ・シュワルツマンCEO

サウジアラムコ:アミン・ナセルCEO

クアルコム:クリスティアーノ・アモンCEO

フェデックス:ラジ・スブラマニアムCEO

メルセデス・ベンツ:オラ・ケレニウスCEO

BMW:オリバー・ツィプセCEO

シーメンス:ローランド・ブッシュCEO

HSBCホールディングス:ジョルジュ・エレデリーCEO

SKハイニックス:クァク・ノジョンCEO

サムスン電子:ジェイ・Y・リー会長

日立製作所:東原敏昭執行役会長

トヨタ自動車:豊田章男代表取締役会長

習近平氏が外資企業代表たちに語ったこと

 習近平氏は世界に名だたる企業の代表を前に、


中国改革開放と現代化建設において外資企業が果たしてきた重要な役割
中国は外資系企業が長期的に投資、振興する沃土になる
外資企業が中国で直面する問題を切実に解決する
世界経済秩序を守るために共同で努力する

という四つのパートから演説を行いました。

 まず(1)に関して、2012年11月に行われた中国共産党第18回全国代表大会以降、外商投資企業の設立は累計で124万社、投資額は3兆ドル近くに達したとしました。また、外資企業は中国の輸出の3分の1、工業付加価値の4分の1、税収の7分の1を占め、3,000万人以上の雇用を生み出していると数字を用いながら説明し、「外資企業の中国への投資は中国が発展する上で重要な役割を果たしてきた」と主張し、謝意を表明しました。

(2)に関しては、「世界第2位の消費市場」として、中国は外資企業による投資関連の立法を強化し、「貿易や投資の自由化と便宜化を推進し、市場化、法治化、国際化した一流のビジネス環境を積極的につくり上げようとしてきた」とした上で、「中国は長期的に政局の安定、社会の安定を保持する。中国は世界が公認する最も安全な国家の一つである」と主張しました。

 習近平氏の口から「政局の安定」という言葉が出てきたときには正直ドキッとしましたが、絶対多数の外資企業にとって、中国共産党が統治する政局の安定性は、中国でビジネスをしていく上で最も重要な要素の一つであると同時に、懸念事項だと言えるでしょう。政治が混乱や動乱に陥れば、ビジネスを取り巻く環境が劇的に変わってしまう可能性があるからです。この点も、中国ならではと言えるでしょう。

(3)に関して、習近平氏は「近年、外資企業が中国で発展する上で確かにいくつかの問題に直面している」と認めました。その上で、「中国政府の態度は明確で、我々国内の管理に関わる問題に関しては、より一層の全面的改革開放を通じて解決していく」とし、「第20期三中全会はすでに外資企業による投資と対外投資管理体制改革においてロードマップとタイムテーブルを制定した。改革措置が実践される中で、皆さんが懸念に思っている問題は有効に解決されるだろう」と外資企業の代表たちに呼びかけていました。

 外資企業が中国でより一層市場参加がしやすくなること、公平な市場競争に向き合えること、中国政府によるサービスや保障を享受できることなどを提起しました。習近平氏による演説の内容や口調からは、中国経済が難しい局面にある中で、目の前にいる大手企業を含め、外資企業をなんとか味方につけたいという危機意識がにじみ出ていました。

習近平氏もやっぱり気にするトランプ米政権の動向

 特筆に値するのは、習近平氏が「近年、外資企業が中国に投資する上で、地政学要素がもたらす障害に遭っている。それらは、国際政治や外交に関わる」と地政学リスクについて語りだしたことです。その上で、次のように指摘しました。

「皆さんが比較的関心を持っている中米関係の問題に関して、我々は終始、中米関係が安定的、健康的で、持続可能な発展を保持することは、両国人民の根本的利益に符合すると思っている。中米経済貿易関係の本質は互恵とウィンウィンであり、貿易摩擦は平等な対話と協調を通じて適切に処理されるべきである」

 4月2日(現地時間)に「相互関税」を表明すべく、日本時間の4月3日朝5時に演説を発表するというトランプ大統領の政策や言動を強く意識した文言であると私は理解しました。「トランプ関税」は中国経済だけでなく、世界経済にとっても不確実なリスクであり、「各国が連携して向き合い、乗り切ろう」とすら呼び掛けているようでした。中国としては、トランプ大統領率いる米国を前に、「対米包囲網」を構築すべきとすら考えているのでしょう。

 そして、(4)において、「世界経済秩序を共同で守ろう」と呼び掛けているのも、それを壊そうとしているのは米国であり、米国こそが秩序の破壊者、トラブルメーカーなのだという国際世論、およびナラティブをつくりたいからにほかなりません。

 日本の日立製作所、トヨタ自動車の代表を含め、習近平氏の口から出てきたこれらの言葉を聞いた会談の参加者たちが、どう感じ、何を思ったのかは定かではありませんが、少なくとも、習近平国家主席率いる中国共産党指導部が、昨今の中国経済、地政学、米中関係、世界経済、そして「トランプリスク」をどう捉えているかというテーマの一端が見えてきたという情報収集・分析(インテリジェンス)の意味で、私にとっては有益な習近平演説でした。

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