トランプ米大統領の相互関税に対し、中国の習近平国家主席が即座に報復措置を取ると決定したことは、世界に明確なメッセージを発した。米国が貿易戦争を望むなら、中国は戦う用意ができているということだ。
習氏は国内の経済成長を促すため、潜在的な消費を「全面的に実体化させる」取り組みを提唱。消費の再活性化、国内需要の拡大、投資効率の促進が国家の最重要課題と述べた。中国中央テレビ(CCTV)が7日、習氏がいつ、どこでこうした発言をしたかには触れず、報じた。
数週間に渡り限定的な措置で応じ、対話を呼びかけてきた中国は、4日に全面的な関税と輸出規制を打ち出し、強硬姿勢に転じた。中国共産党機関紙、人民日報は7日の社説で、中国政府は交渉の余地は残しておくものの、もう米国と合意するという「幻想にしがみつく」ことはないと述べた。
中国は米国の相互関税に対し、報復措置を取ることで対抗した
Source: Bloomberg
今回の中国の対応は貿易戦争の長期化を連想させ、世界の市場を揺らした。7日には、トランプ米大統領が中国が米国製品に対する34%の報復関税を撤回しない場合、「中国に50%の追加関税を課す」と警告。米中の対立がさらに激化した。
ブルームバーグ・エコノミクス(BE)によると、米国の関税の引き上げは、2国間貿易の大半を消滅させる水準に達している。米国の追加関税は不可避との現実に直面し、中国政府は自国経済を押し上げようとしている。ブルームバーグ・ニュースは、中国の政策当局者が週末、北京に集まり、消費を刺激できる景気対策を加速する計画について話し合ったと報じた。
プレッシャーとプライド
上海の復旦大学米国研究センターの吴心伯理事長は、「相手側が戦うことを望んでいる以上、交渉の席に着く前に戦わなくてはならない」というのが中国の立場だと説明。トランプ氏と習氏の電話会談の可能性については、「今平手打ちをされた状況で、自ら電話をして許しを請うようなことはしない」と述べた。
貿易戦争が世界経済にもたらす影響を懸念し、株式市場は急落している。アジア市場は2008年以来最悪となった。香港市場に上場している中国株で構成するハンセン中国企業株指数は弱気局面入りし、ハンセン指数は1997年以来の大幅な下落幅となった。
米中間の緊張が高まり、首脳同士の電話会談が近く行われる見通しは後退している。トランプ氏は大統領2期目が始まってから習氏と話していない。米国の大統領が就任以来中国首脳とこれほど長期間会談しないのは、過去20年で初めてだ。
ワシントンのシンクタンク「民主主義防衛財団」(FDD)のクレイグ・シングルトン上席研究員は「トランプ氏と習氏は、プレッシャーとプライドの間で板挟みの状況に陥っている。習氏が関与を拒めば米国の圧力が激化し、早急に関与すれば弱腰との印象を与えかねない」と指摘した。
習氏はデフレに直面する経済を支えつつ、国内向けには強さを示さなければならないという、難しい状況にある。中国では住宅市場の低迷で家計の富の大部分が失われ、落ち込んだ消費者の信頼を回復することが大きな課題となっている。
UBSグループ、ゴールドマン・サックス・グループ、モルガン・スタンレーといった複数の世界の大手銀行は、米国の急激な関税引き上げによる経済底割れのリスクを警告した。4%という控えめな成長予想もすでに出ている中で、中国の成長率見通しをさらに押し下げる可能性があるとしている。
増える武器
ただ、米中間の緊張がさらに高まっても、中国は複数の手段に訴えることができる。過去の行動に照らすと、関税の影響を相殺するために人民元を切り下げたり、重要な鉱物資源の輸出規制を強化したり、中国で事業を展開する米国企業への圧力を強めたりすることが考えられる。
同時に、中国は他の地域とより強固な経済関係を構築することで、外交的な影響力を拡大する可能性もある。日中韓3カ国は先月、経済貿易担当閣僚会合を開き、世界貿易機関(WTO)のルールに基づく自由で公正な貿易体制を支持すると表明。先ごろブリュッセルを訪問した中国財政省の廖敏次官は、欧州連合(EU)と協力し、多国間貿易システムを守る意思があると表明した。
今月末に予定されている習氏の東南アジア訪問は、さらに重要な意味を持つ。中国当局は関税の軽減を期待してカンボジア、マレーシア、ベトナムといった国々が米国にどのような提案を行うか、また、そのような動きが中国の利益を損なう可能性があるかどうかを注視しているとみられる。
ISEASユソフ・イシャク研究所のリー・スーアン氏は「中国にとってより厳しい対応を迫られる可能性があるのは、安価な中国製品の大量流入から自国産業を守るために、他の経済圏が保護主義的な措置を次々と講じる場合だろう」と述べた。
ただ、圧力が増しているにも関わらず、中国側からは、米国と完全にデカップリング(切り離し)するという明確な兆しはない。その代わりに、中国は将来的な対話の選択肢は残したまま、長引く対立に向けて態勢を整えてているように見える。
中国の通商政策を研究しているシンガポール経営大学のヘンリー・ガオ教授は、「中国は米国に対し、脅しには屈せず、自らの立場を堅持する意思があると伝えたいと考えている。大きなダメージを与えるというよりも、圧力をかけて対話を促すことが目的であるようにみられる」と述べた。
原題:Xi Switches to Fight Mode as Trump Trade Deal Looks Unlikely (2)(抜粋)
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