「EOS R50 V」とキットレンズ動画特化で攻めるVシリーズ

カメラメーカー各社は、静止画と動画機能の両方を売りにしてはいるが、動画の方は今一つ何に使うんだという目的を見失っていた時期があった。ビデオカメラは運動会だったが、じゃあデジカメ動画は何なんだと。

2020年に業界が目をつけたのが、「Vlog」だった。米国ではとっくに火がついていたが、日本ではまだまだだった時期にソニーが「ZV-1」を、パナソニックが「LUMIX G100」を投入した。2022年にはニコンもZ30で参入している。

一方キヤノンは静観の構えだったが、2023年に「PowerShot V10」でVlogカメラに参入した。コンパクトな縦型という、デジタルカメラっぽくないカメラだった。

その後も今年、コンデジスタイルの「PowerShot V1」を投入したところだが、早くも第3弾となる「EOS R50 V」が登場する。PowerShotではなくEOSブランドなのは、レンズ交換ができるミラーレス機だからである。ボディ単体は5月下旬発売予定で、価格は113,300円。キットレンズは遅れて7月下旬発売予定で、価格は単品で55,000円。レンズキットモデルは140,800円となっている。

今回はいち早く、レンズキットをお借りすることができた。キヤノンの動画専用ミラーレス機の実力を、さっそくテストしてみよう。

そつなく撮れる動画

ではさっそく撮影してみよう。まずキットレンズの画角だが、35mm換算では約22mm〜48mmで、光学ズームでは2倍ちょっとということになる。遠景を撮影する場合はあんまりズームしてる感はないが、近景から中景ぐらいではサイズをちょっと調整するにはちょうどいい。

全面を使った4K撮影と、4Kクロップモードでの電子手ブレ補正画角を比較してみる。

水平維持は、カメラの傾きを補正してくれる機能だが、補正範囲が小さくほぼ効果が感じられないのはこれまでのVシリーズと同じだ。

4Kクロップは、ワイド寄りのキットレンズでもそこそこ寄れるというメリットがあるが、如何せんフレームレートが60p固定になってしまうので、全画素4K撮影とフレームレートが合わない。4Kクロップでも24~30pで撮れるモードが欲しかった。

そのほか映画を意識した横長のシネマビューモードもある。これを選ぶとフレームレートも強制的に23.98pとなる。ただし撮影される動画の解像度としては3840×2160で、上下に黒が挿入されるだけである。

上下に黒が挿入されるだけのシネマビューモード

ズームは光学手ブレ補正の影響によるガタツキもなく、滑らかだ。またズーム動作音も収録されず、内蔵マイク収録にも使いやすい。フォーカスブリージング補正も効くので、フォーカスが動いた際の画角変化もない。ズームしてもレンズ全長が変わらないので、ジンバルに乗せてもバランスが取りやすいレンズだ。

レンズに応じてフォーカスブリージング補正が使える

電子手ブレ補正には標準、強、水平維持の3タイプがある。電子補正なしと標準、強を順にテストしてみた。さすがに走ってしまうと補正が追いつかないが、標準での補正具合は自然で、手持ちでも十分効果がある。

手ブレ補正比較

キットレンズはワイド寄りでF4スタートなので、被写界深度は深めだ。さらにデュアルピクセルCMOS AF II対応なので、フォーカスに関してはまず心配いらないのは強みだ。一方でこのレンズはかなり近接でも撮れるので、この場合は被写界深度はかなり浅くなる。いろんな画が撮れるレンズである。

全面4Kで撮影したサンプル

音声収録もテストしてみた。ウィンドカットや音声ノイズ低減は「入」で集音したが、あいにく撮影日は非常に風が強い日だったので、テストには不利な結果になった。だがそれも、ウィンドスクリーンが付属していればだいぶ違ったのではないかと思う。集音性能は悪くないのに、もったいない。遅れて別売でも検討すべきだろう。

内蔵マイクのテスト

屋外で集音するなら外部マイクを使ってくれということかもしれないが、昨今はカメラもスマートフォンもイヤホンも内蔵マイクの性能がどんどん上がってきており、前や後ろに指向性が変えられるものや、AIによる強力なNRを備えたものも出てきている。そうした内蔵マイク強化のトレンドには、ちょっと乗り遅れた感じだ。

総論

キヤノンはそもそもデジカメで動画撮影するというブームを生み出したメーカーで、その後のシネマ動画に大きな影響を与えた。ミラーレスのRFマウントになってからは、シネマカメラのCシリーズを展開している一方で、Vlogのようなカジュアルなシネマチック動画はコンデジでカバーするといった棲み分けがなされてきた。

今回EOS RシリーズでVlog向けカメラが出たということは、遅ればせながらミラーレスでカジュアルシネマに参入するということだろう。

ポイントは、LUTのような難しいことはやらせず、多彩な内蔵カラーフィルタで同じようなことができる点と、やはりレンズ交換ができることである。多く普及したEFレンズを持っている人なら、画角は狭くなるがマウントアダプタ経由で資産が生かせるのも大きい。またLogが同じなので、キヤノンシネマカメラの2ndカメラとしても使える点もポイントである。RFやEFレンズが付けられるなら、画質や表現の面でも遜色ないだろう。

そのほか見逃せない機能としては、動画にセルフタイマーをつけたことだ。自撮りする際に、カメラ側がキュー出ししてくれるのは心強い。またネットライブ配信も4通りの方法が提供されるなど、ライブカメラとしての機能がボタン一つで呼び出せるなど、細かいところで動画に寄せた設計がなされている。

ライブ配信ボタン1発で配信メニューにアクセスできる

他社に遅れ気味でのVlog参入ではあるが、キヤノンなりの回答を用意してから参入してきた、ということだろう。

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