この2年間、アフリカのテックエコシステムは、2021年から2022年にかけての「資金調達の熱波」と、その後に訪れた「資金調達の冬」の間を行き来してきました。
しかし、もしこの「好況と不況」という物語が、より繊細な現実を隠してしまっているとしたらどうでしょうか?
今、私たちはむしろ、待ち望まれていた安定期に入りつつあるのかもしれません。
Africa: The Big Dealの最新インサイトによれば、直近12か月間を対象にした分析から、よりドラマ性の少ない、しかし示唆に富むストーリーが浮かび上がっています。暦年単位のデータは注目されがちですが、実は本質的なトレンドを覆い隠してしまうことがあります。
1年単位で資金調達が減少したという事実は危機的に聞こえるかもしれませんが、1月から12月といった固定的な期間ではなく、重なり合う12か月間でデータを見ることで、より動的な変化を読み取ることができます。
熱波から冬眠へ
少し過去を振り返ってみましょう。2021年半ばから2022年半ばにかけて、アフリカのスタートアップは驚異的な63億米ドルを調達しました。これは過去数年間の平均の4倍以上にあたります。
この時期は、急速な資本流入、非常に高い企業評価額、そして世界中の投資家からの関心の高まりによって特徴づけられました。この「資金調達の熱波」は、世界的なトレンドにやや遅れてアフリカにも波及してきたものでした。
Source: Africa: The Big deal
しかし、過熱した市場には必ず修正が訪れます。2022年半ば以降、投資家のセンチメントは冷え込み、タームシート(投資条件書)は希少になり、活気は沈静化しました。「資金調達の冬」という言葉は、この現象を表す言葉として広まりました。
とはいえ、その下落は決して壊滅的なものではありませんでした。むしろ、資金調達の減少は断崖絶壁のような急落ではなく、穏やかな傾斜を描いた下降でした。そして何より重要なのは、その下落がすでに底を打ったように見えることです。
ニューノーマルへ
季節的なニュースヘッドラインから視点を少し引いてみると、より明確な全体像が見えてきます。
2025年3月時点で、過去12か月間の資金調達額は20億ドルから24億ドルの間で推移しています。平均すると22億ドルとなり、これは「資金調達の熱波」以前、2019年から2021年初頭にかけての平均額14億ドルと比較して、約60%も高い水準です。
この「ニューノーマル(新たな常態)」は、熱狂のピーク時ほど派手ではないものの、より健全で持続可能な資金調達環境を示しています。
つまり、アフリカのスタートアップエコシステムは崩壊したのではなく、成熟したのです。市場に流れ込む資本の基礎水準は確実に上昇しており、それだけでも十分に前向きな材料と言えるでしょう。
Source: Africa: The Big deal
なぜ重要なのか
資金調達が横ばいになったという事実は、急騰や暴落ほどニュースにはなりません。しかし、まさにこの安定こそが、エコシステムにとって必要なものだったのかもしれません。
安定した環境の中では、起業家たちは集中して事業構築に取り組むことができ、投資家たちはより規律を持った投資判断を行い、エコシステム全体は基盤を強化できるのです。
さらに注目すべきは、世界経済が不安定な中でもアフリカ市場への資金流入が堅調である点です。これは、投資家たちがアフリカの長期的な成長可能性を信じ続けている証であり、単なる楽観から、より現実的な期待値への「再調整」が進んでいることを示しています。
今後の見通し
今なお「かつてのピークに戻る」ことを期待する声もありますが、多くの関係者はこの新たな局面を、より思慮深く、インパクト志向の投資時代として受け入れつつあります。データが示しているのは、「資金調達冬」は単なる崩壊ではなく、必要不可欠なリセットだったということです。
もし現在のトレンドが続けば、将来私たちはこの時期を「下落期」としてではなく、「アフリカの持続的な成長の始まり」として振り返ることになるでしょう。
著者:Lawrence Maina (Axcel Africa Consuliting アソシエイトコンサルタント)
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