【インド人も牛肉を食べる】その数なんと2億人!? インドを支える牛の力

「経済とは、土地と資源の奪い合いである」

ロシアによるウクライナ侵攻、台湾有事、そしてトランプ大統領再選。激動する世界情勢を生き抜くヒントは「地理」にあります。地理とは、地形や気候といった自然環境を学ぶだけの学問ではありません。農業や工業、貿易、流通、人口、宗教、言語にいたるまで、現代世界の「ありとあらゆる分野」を学ぶ学問なのです。

本連載は、「地理」というレンズを通して、世界の「今」と「未来」を解説するものです。経済ニュースや国際情勢の理解が深まり、現代社会を読み解く基礎教養も身につきます。著者は代々木ゼミナールの地理講師の宮路秀作氏。「東大地理」「共通テスト地理探究」など、代ゼミで開講されるすべての地理講座を担当する「代ゼミの地理の顔」。近刊『経済は地理から学べ!【全面改訂版】』の著者でもある。

【インド人も牛肉を食べる】その数なんと2億人!? インドを支える牛の力Photo: Adobe Stock

実は、インド人も牛肉を食べる!

「インド人はヒンドゥー教を信じているから、牛肉を食べない」。よく耳にする話です。ヒンドゥー教は多神教で、三神一体を近世の教義としています。

 三神とは、ブラフマー(創造神)、ヴィシュヌ(維持神)、シヴァ(破壊神)のことです。シヴァはナンディンと呼ばれる乳白色の牡牛を乗り物にしています。そのため牛は聖なる動物であるとして、食すことは禁忌となっているのです。

インド人の1割強はイスラーム教徒

 ところで、インドにはどれくらいのヒンドゥー教徒がいるのでしょうか?

 インドの宗教構成(2011年国勢調査)は以下の通りです。ヒンドゥー教79.8%、イスラーム14.2%、キリスト教2.3%、シーク教1.7%、仏教0.7%、ジャイナ教0.4%です。インド人といっても千差万別で、ヒンドゥー教徒は約8割なのです。ここで注目すべきはイスラーム教徒です。

 国民の14.2%ということは、2011年時の人口12億6123万を母数とすれば、およそ1億7909万人のイスラーム教徒が存在する計算となります。もちろん、現在はさらに増えているはずです。

 国内に抱えるイスラーム教徒の数では、世界有数といえるほどの水準です。イスラーム教徒は「豚肉を食べてはいけない」という宗教上の禁忌はありますが、牛肉は禁じられていません。インドではニハリという牛肉を煮込んだ料理が有名ですが、イスラーム国家であるムガル帝国時代に生まれたものです。キリスト教徒も牛肉は食べますから、インドには2億人もの牛肉を食べられる人たちがいるのです。

牛乳とバターの生産量は世界一!

 インドの牛の飼育頭数はブラジルに次いで多く、およそ2億3435万頭もいます。そのため、牛乳とバターの生産量はともに世界最大となっています。

 インドでは、水牛からも搾乳します。インドの水牛の飼育数はおよそ1億1200万頭。これは世界最大です。水牛は搾乳できなくなると、食肉として解体されます。飼育頭数の多さもあり、インドの牛肉の生産量は世界的にも多いとされています。またインドは、牛革製品の生産地としても有名です。

 かつては水牛肉を含む「beef」統計でインドが世界最大の輸出国と報じられた時期もありましたが、最近は国内外の情勢や政策の影響もあって、統計上「インド産牛肉の生産量・輸出量」が把握しづらくなっています。

 実際には水牛肉が大半を占め、ヒンドゥー教の敬う牛(乳牛など)とは分けて扱うべきだという意見も強まっているようです。

(本原稿は『経済は地理から学べ!【全面改訂版】』を一部抜粋・編集したものです)

WACOCA: People, Life, Style.