債務危機は繰り返さないが、しばしば韻を踏む。今週の英国債利回りの急騰は2022年9月のトラス・ショックと比較されるが、両者には重大な違いがある。とはいえ、リーブス財務相やベイリー・イングランド銀行(英中央銀行)総裁が今回の混乱を無視するわけにはいかないだろう。写真は英ポンド紙幣。2010年10月、バンコクで撮影(2025年 ロイター/Sukree Sukplang)
[ロンドン 9日 ロイター BREAKINGVIEWS] – 債務危機は繰り返さないが、しばしば韻を踏む。今週の英国債利回りの急騰は2022年9月のトラス・ショックと比較されるが、両者には重大な違いがある。とはいえ、リーブス財務相やベイリー・イングランド銀行(英中央銀行)総裁が今回の混乱を無視するわけにはいかないだろう。
一部の指標を見ると、現在の国債市場の混乱は22年よりも深刻だ。30年物国債利回りは5.4%前後と、1998年以来の高水準にあり、他の多くの欧米諸国に比べて急ピッチで上昇している。
だが、根本的な原因は異なる。22年の危機は、当時のトラス首相が発表した財源の裏付けがない減税計画に端を発し、レバレッジをかけたファンドの破綻によって悪化した。
今回は海外に問題の根がある。トランプ次期米大統領の財政政策に対する懸念から米国債利回りが急上昇したことが主因だ。
確かに、英国の年金基金が問題を複雑にしている側面はある。UBSの調査によると、英国の年金基金は資産と負債がすでにほぼマッチングしており、英国債をほとんど必要としていない。
ただ、トラス・ショックのピークには10年物国債の対米国債利回りスプレッドが50ベーシスポイント(bp)を超えていた。現在は12bp程度だ。
A line chart showing the difference between UK and US bond yields over time
とはいえ、利回りの高騰は英国の3つの問題を浮き彫りにしている。
第1は、借入コストの上昇を受けて、リーブス財務相の財政運営の余裕がなくなってしまうことだ。市場の状況が劇的に変わらない限り、リーブス氏は自ら課した財政ルールを守るため、年内に公共支出の削減か増税に踏み切る必要が出てくるだろう。支持率が低迷している労働党政権にとって、これは政治的にも経済的にも良い選択肢ではない。
第2は構造的な問題だ。UBSによると、英国の年金基金は今年度発行の国債3000億ポンドのうち、15%程度しか購入しない見通しだ。年金以外の国債の買い手を確保するには、利回りの高止まりが必要になる。
第3の問題として、市場の混乱を受けて、中銀が保有国債を年間1000億ポンド売却する量的引き締め(QT)を継続すべきかどうかという問題が浮上する。22年のようにQTのペースを遅らせたりQTを停止する事態になれば、おそらく火に油を注ぐ結果となるだろう。
とはいえ、利回りが高止まりすれば、QTを微調整する圧力が高まる。特にヘッジファンドや苦境に陥った他の売り手が今回の混乱で破綻、もしくは破綻しつつあることが明らかになればなおさらだ。
今回の危機はトラス・ショックとは異なる。だが、英国は再び、動揺する債券投資家に細心の注意を払う必要がある。
●背景となるニュース
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(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
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