ア・リーグのMVPを巡って熾烈な争いを繰り広げた大谷選手とジャッジ選手。今シーズンは終了しましたが、どちらも圧倒的な数値を残し、MVP論争を大いに盛り上げてくれました。MVPの選出は全米記者による投票で決まるものですが、本当にその選手の価値を知っているのは対戦相手として戦った現役の選手たちです。対戦相手として対峙した時に、その選手が身にまとっているオーラや、チャンスでの勝負強さ、他を寄せ付けない雰囲気など、数字では測りきれないものも踏まえてその選手の価値を感じていることでしょう。

大谷選手について、エンジェルスの同僚であるマイケル・ロレンゼン選手は、メディアのインタビューで、大谷選手について次のようにコメントしています。
「今年に関して言えば、オオタニは去年よりも良いかもしれない。
 2年連続でこれだけの活躍をしているから『それが普通なんだ』『当然だ』と思ってしまいがちだけど、僕に言わせれば、オオタニは全然普通じゃないよ。こんなシーズンがこれからやってくるかもわからないんだよ」

そんなロレンゼン選手も二刀流の経験者です。経験者だからこそ二刀流の難しさを知っており、大谷選手のプレーを「彼が去年にMVPを取ったからって、今年の彼からそれを取り上げることはできない」とも断言しています。

また、チームメイトのトラウト選手は次のように語ります。

同じチームで大谷選手を間近で見ているだけに、トラウト選手、ロレンゼン選手のコメントには説得力がありますね。

いつもは記者達がMVP論争を繰り広げていますが、対戦相手として戦ったことのある選手たちが語る「生の言葉」には記者たちには語れないような凄さが感じられます。驚異的なペースでホームランを打ちまくったジャッジ選手、超人的な二刀流の活躍で今回は現役MLB選手やOBのコメントをメインにお送りしていきます。

◆現役選手たちからの「生の声」
①カルロス・コレア
「去年はショウヘイが満場一致で選出されるべきだと言った。40HRを打っていたし、あのピッチングだったからだ。またWARはゲレーロJr.の5か6と比べて(大谷が)9だった」

「ピッチングは去年よりいいが、打撃はほぼ去年と同じ。ジャッジがしていることは、現段階では少し彼を上回っていると思う。ジャッジのWARは10でショウヘイは9だ。その点は見逃せない」

「ピッチングが過去最高の時代、ボールがあまり飛ばない時代にに本塁打記録を更新しようとしているのは、何かしらの評価をされるべきだ。ある選手が60本打っていて、次に多いのが40本というのは、20本の差だ。彼は他に大差をつけている」

②アルバート・プホルス
「ジャッジは信じられないシーズンを送っている。彼には最高に楽しませてもらっているよ。アメリカンリーグのホームラン記録を樹立してもらいたいし、残り試合を考えればそれは達成されるだろう」

「私は彼の幸運を願っているし、彼は間違いなくMVPを見据えているよ。確かにオオタニ、ホセ・ラミレス、マイク・トラウトといった素晴らしいシーズンを送り、MVPに相応しい選手たちもいるが、私はずいぶん前からMVPはジャッジで決まりだと思っている」

③アダム・オッタビーノ
「オオタニが世界一の選手であるという論調には賛成する。だが今季のア・リーグMVPはジャッジだ。理由は、勝っているチームに所属しているかどうかが、選出のひとつの基準だと思う。ジャッジの貢献で、チームはプレーオフ進出を決めた。オオタニが素晴らしい活躍をしていないという意味ではないが、彼のチームは消化試合だ。ヤンキースは、ジャッジがいなければ今の位置にはいなかったかもしれない」

④アンドリュー・ベラスケス
「たしかにジャッジがやっているのは歴史的なことだ。僕は昨年、彼がどんなに素晴らしい選手なのか、どんなに素晴らしいチームメートなのかを間近で見ることができた。彼はすごく価値ある選手だけど、ショウヘイがやっていることは、誰にも真似できない。彼は投打において、トップだよ。一生に一度しか出会えない選手なんだ。どちらか1人に決めるというのはとても難しいことだよね」

⑤ミゲル・カブレラ
「オールド・スクール(古いやり方)で決めたら、ジャッジが取ると思う。彼のチームはプレーオフに行く。以前の考え方はプレーオフに行けばMVPになるチャンスが大きいとされていた。ただ、自分は五分五分だと思う。ジャッジはすごい打者だし、大谷は投球と打撃。いくら考えても今は、五分五分しか選べない。」

ひと昔前までは、プレーオフに進出するチームからMVPを獲得する確立は高かったというカブレラ選手。しかし、大谷選手とジャッジ選手のどちらかを選ぶのは非常に難しいと言っています。ジャッジ選手が優勢という声が多い中、カブレラ選手のように決められないと迷っているのも納得ですよね。

⑥マイク・トラウト
「シーズン最後までクレイジーなレースになると思う。ジャッジは(ロジャー・マリスのア・リーグ最多)61本塁打の記録に迫っているからね。でもショウヘイがやっていることを毎日見ているけど、とんでもないこと。30本以上の本塁打を打ち、試合に出るたびに他を圧倒している。先発投手として規定に届きそうな働きをし、もちろん打撃もすごい。彼を見ているのは楽しいし、彼に匹敵するような選手は誰もいないよ」

「もう何度か言っているけど、ショウヘイは本当に目を見張るものがある。バッティングは去年よりも成績的に少し劣っているかもしれないけど、ピッチングはさらに支配的になった。だから、本当に感心する。マウンドでは特に素晴らしい。
 こないだのマリナーズ戦では、5種類くらいのスライダーを投げ分けていた。あれは簡単じゃないし、本当に凄い。さらにショウヘイは、球速が100マイルで横変化が20インチもあるシンカー(ツーシーム)を投げ始めた。こういう球種を新しく取得し続ければ、彼を攻略するのは難しくなる。本当に信じられない。今まで見たことがないよ」

◆MLBで活躍したOBたちからの「生の声」
OB①:マーク・マグワイア氏
「ジャッジが最終的に何本打とうが、文句なしでMVPになるべきだ。その理由としてジャッジは二刀流ではないが、外野の守備力を誇る“二刀流”の選手。ヤンキースをプレーオフ、そしてワールドシリーズへ牽引する存在が彼だ。MVPになるだろう。
オオタニの活躍を私は知っている。けれどもだ。エンゼルスの順位を見てほしい。ワイルドカード争いにもいない。ジャッジ抜きならヤンキースは今頃どこにいるのか。MVPは断然ジャッジだ」

OB②:ペドロマルチネス
「シーズンが終われば、再びオオタニがMVPに輝いているはずだ」
「価値という部分についても考えよう。エンゼルスは今季59勝? 彼はおそらくエンゼルスの勝利の70%分を担保している。打撃面と投球面でだ。打者として、投手として、チームを牽引している。これは至難の業だ。チームへの貢献を見逃してはいけない」

「チームがシーズンを通して勝てないのはオオタニのせいではない。彼はまさに一人でチームを背負っている。ジャッジが攻撃で奮闘しているのには、背後には本当に優秀なチームがある。エンゼルスとヤンキースに所属していて、チームの強さを根拠にするのはおかしい」

「彼は130イニング以上投げているんだ。それがどれだけ足に負担になるのか、わかっているのか? 私はピッチャーだったからわかる。あれだけ三振を取るのがどういうことなのか。投手の負担を見過ごしてますね」

OB③:ジェイク・ピービー氏
「いままでオオタニのような存在は見たことがなかったのに、僕らは彼がしていることを当たり前だと思っている節がある。彼はどれだけ称賛しても称賛しきれない。どれだけの言葉で表現しても語りつくせないんだ。間違いなく、今リーグでベストなピッチャーの一人で、リーグでベストなバッターの一人だ。筆舌に尽くしがたいというか、ただ脱帽だね。『最も価値がある』という点においては、彼こそがMVPだ」

OB④:C.C.サバシア氏
ヤンキースOBにも関わらずMVPにはジャッジ選手ではなく、大谷選手を激推ししています。
「オオタニが選出されるべき。彼は野球史上最高の選手だ。彼が健康である限り、毎年MVPだよ。投手としては成長し続けている。彼をMVPにしなければだめだ」

「オオタニは昨季より今季の方が活躍している。ジャッジが今やっていることはすべて理解しているし、彼がヤンキースのユニホームを着て61本塁打のマリスの記録を追うのを見るのは素晴らしいこと。しかしこの男(大谷)は文字どおり、我々がこれまで見てきた中でベストプレーヤーだよ」

◆テーマ:歴代MVP受賞者たちが語る「大谷?ジャッジ?」
①ジャスティン・バーランダー(2011年MVP)
「今年はMVPのトピックである「価値とは何か」が浮き彫りになっているシーズンだと思う。ジャッジの活躍でヤンキースはポストシーズンに進出できる。一方、翔平の見せた投打二刀流は歴史的にも特別。既に未知の領域にいる。今まで見たことがない。どちら側にも正当性がある。それぞれに意見があり価値観があって当然だと思う。一つの答えを出すのは難しい。どちらも信じられない歴史的偉業に変わりない。例年なら、投票権を持っている記者をうらやましく思うが、今年はそうは思わない。私には判断はできない。」

②キース・ヘルナンデス(1979年MVP)
「MVP選手はチームに違いをもたらすものだから、私は勝利に重きを置いている。ジャッジは凄い成績を残しているが、今の大谷がやっていることを認めないことも難しい。メッツのテレビ実況を担当するゲーリー・コーエン氏は「大谷以外にMVPはない」と言っているよ。実際にベーブ・ルースですらできなかったことをやっているわけだからね。実は私がMVPを獲った79年は(パイレーツの一塁手ウィリー・スタージェルとの)唯一の2人同時受賞だった。今年は2人をMVPに選んでもいいシーズンではないか。」

③ドン・マッティングリー(1985年MVP)
「2年連続のMVP受賞はハードルが高い」
「大谷が昨季受賞していることが不利に働くのではないかと思う。多くの人が大谷の価値を理解しているが、2年連続となると、基準を厳しくしてしまうのが『人間の性質』だ。私も85年に受賞後、86年はより良い成績を残したのに、受賞できなかった。2人がやっていることを正面から比較できないから難しい。最後まで議論になるだろう」

◆MVPを語るメジャーの監督たち
①エンゼルス・ネビン監督
「前から言っているように、今、彼(大谷)が最も価値のある選手(MVP)だ。それは間違いなく、揺るぎない信念がある。誰かが新たに投打の両方をやらない限り、他にはない。私はジャッジを息子のように愛している。だが、言い続けるよ。大谷は誰にもできないように野球の試合を支配し続ける」

②元エンゼルス・マドン監督
「たぶん地区優勝を果たしたチームに所属しているという点ではジャッジが有利だ。
 しかし1人で2人分の働きをしている点ではショウヘイが有利だ。彼はサイ・ヤング賞候補になる可能性もMVP候補になる可能性もある。1人で2人分だよ。彼はケタ外れなんだ。
 彼が今季のような働きを続けたら、毎シーズンでもMVPに選ばれるべきだ。しかしアーロンはただ本塁打の記録を塗り替えたというだけではない。3冠王に手が届くところまでいったのだから、今回は特別で2人の受賞とするべきだ。2人ともMVPに値する」

③ヤンキース・ブーン監督
「オオタニが二刀流でやってのけていることは、現実離れしている。ジャッジが今季やっていることの凄さは、他と比べると分かる。OPSは圧倒的、本塁打は42本で、2位は40本と断トツだ。それにジャッジは盗塁もする。センターも守る。重要な場面で何度も大きなヒットを放っている。彼はMVPの条件をすべてクリアしている。彼が選ばれないというのは、想像できない」

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